trialog Partnered with Sony
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VOL.7 TIMES

時代

カメラは今しか写せない
森山大道×長澤章生×若林恵

前回からわずか8日後の2019年7月30日時代」をテーマにtrialog vol.7が開催された。ゲストは世界的写真家・森山大道と、彼の歩みを見守ってきたAkio Nagasawa Gallery主宰・長澤章生。trialog共同企画者・若林恵との「三者対話」に耳を傾けるべく、たくさんの若いオーディエンスが会場に詰めかけた。

思想のための挑発的資料」を掲げた伝説の写真同人誌『プロヴォーク』で中心を担い、“アレ・ブレ・ボケ”と形容された表現で、60年代後半の写真界を震撼させた森山。トーク終了後の若林も「ずっと緊張していた」と語っていたが、海外でも名を轟かすレジェンドの登壇を前に、会場は独特な空気に包まれた。

PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA
TEXT BY TOSHIYA OGUMA

TALK SESSION

ライフワークを取り戻すまで

あらゆる表現は時代性と切り離すことができない。刻一刻と動き続ける時代を掴むことは、ヴィヴィッドな表現を生み出すうえで重要な能力だと言える。その一方で、あまりにも時代に迎合しすぎると本質を見失うことになりかねない。第一線で長く活躍し続けるには、時代に寄り添いすぎないことが大切なのではないか」と若林は客席に問いかける。

時代の変遷にアジャストしつつ、一貫して自分であり続けるためには何が必要なのか。アウトオブデートに陥ることなく、筋の通った表現を続けるためのヒントを、森山と長澤は体験談も交えつつ語ってくれた。

まずは森山が、子どもの頃から勉強がまるっきりだめで、絵だけは好きだった」と幼少期を振り返る。やがて商業デザインの仕事に就くも、デスクワークが苦手なのもあり写真家へ転向。最初はカメラの扱い方もわからなかったが、長く続けるうちに「写真ほどポテンシャルを持ったメディアはない」と実感するようになったという。

60年代終盤から70年にかけては、週刊誌のヌード写真も撮影していた森山。しかし、そういう仕事をやるために写真を始めたわけではない」と思い直した彼は、自分が撮ったものをすぐに現像して身近な人たちに配るため、自費出版による個人写真誌『記録』を1972年にスタートさせる。まだインターネットもなかった時代に、森山は発表の“鮮度”にこそ表現のリアリティを見出していた。

その先進的な取り組みを、今でいうZINEですよね。森山さんのエッセイを読んで、これこそ写真家として一番エッセンシャルなポイントだと思った」と長澤は語る。だが、森山が多忙を極めたこともあり、記録』は73年のNo.5から一時中断。森山はずっと無念に思っていたそうだが、そこに手を差し伸べたのは長澤だった。もしまだやるつもりがあったら、ご一緒させていただけませんか」と彼が呼びかけたことで、記録』は2006年に復活。最新号はNo.41で、その次の号も絶賛編集中だという。

森山は自身のキャリアにおける『記録』の位置付けを、ライフワークなんだよね。あるいは、水道やガスのようなライフラインにも近い。僕はいつも小さなカメラをポケットのなかに持ち歩いて、時間があれば『記録』に向けて毎日のように撮っている」と語る。この溢れんばかりの創作意欲こそが、人間としての生き甲斐を与え、写真家としての新陳代謝を促し、表現のフレッシュさを保たせているのは想像に難くない。写真集の出版や展覧会の企画を手がけながら森山をサポートしている長澤は、自身の役割について次のように説明している。

僕の場合は、“出来上がったらすぐ見せてください”というスタンス。これは真剣勝負なんですよ。僕はいつだって、森山さんの知らない森山大道を提案できるようにしたい」

この発言は、trialog vol.5に出演した音楽家・中村佳穂が、コラボ相手を選ぶ基準について「自分が定めている将来像のイメージに一番近づけるメンバーを探している」と話していたのと重ねられそうだ。自分一人だけでは自分を超えられない。よき理解者との出会いも、表現者としての瑞々しさを保つためには重要なのだろう。

森山大道 |DAIDO MORIYAMA

1938年大阪生まれ。写真家・岩宮武二、細江英公のアシスタントを経て64年独立。写真雑誌などで作品を発表し続け、67年「にっぽん劇場」で日本写真批評家協会新人賞受賞。68〜70年には写真同人誌『プロヴォーク』に参加し、ハイコントラストや粗粒子画面の作風は“アレ・ブレ・ボケ”と形容され、写真界に衝撃を与える。以降、近年に至るまで国内外の美術館での展覧会多数。2019年ハッセルブラッド財団国際写真賞受賞。主な写真集に『にっぽん劇場写真帖 1968写真よさようなら狩人1972光と影1982)などがある。個人写真誌『記録』は1972年のNo.1に始まり、73年のNo.5で一時中断〜2006年11月のNo.6 から復刊し、現在も継続出版中。最新号はNo.41。近年は『無言劇Pretty Woman2017Tights in ShimotakaidoLips! Lips! Lips!2018)などを出版。

長澤章生|AKIO NAGASAWA

Akio Nagasawa Gallery/Publishingディレクター、森山大道写真財団理事。自身のギャラリー Akio Nagasawa Gallery(銀座&青山)にて年間各5本程度の展覧会を開催し、展覧会に併せ、自身の出版社より多数の写真集を出版する。主な写真集として、森山大道個人写真誌『記録、ウィリアム・クライン『東京1961、川田喜久治『地図復刻版、須田一政『風姿花伝、細江英公『シモン私風景、サラ・ムーン『FROM ONE SEASON TO ANOTHER』などがある。

あらゆる瞬間がシャッターチャンス

このあと話題は、森山の写真論へと移っていく。半世紀以上に及ぶキャリアを築いてきた彼の言葉は、表現者としての揺らぐことのない信念と、ダイナミックに時代と対峙してきたからこその説得力に満ちていた。

そもそも、森山が撮る個々の写真にタイトルは存在しない。僕らはそこに何が写っていると見るべきなんでしょうか?」という若林の問いに対し、森山が「一枚の写真を撮ることには、性格や性癖、記憶といった様々なレイヤーが存在している。そういうものを持ってる僕が、たまたま街で出会ったものを撮っているに過ぎない」と答えると、長澤も「カメラはおもしろくて。同じ機械で撮ってるが故に、ダイレクトにその人の個性が出る」と続ける。

カメラはただ被写体を撮るための道具ではない。自分の気持ちの奥に潜んでいるものが、あるものと出会った瞬間にプッと出てくる。スナップっていうのはそういうもの」と森山は表現してみせる。代表作となる1972年の写真集『写真よさようなら』で写真表現の解体を目論んだという彼は、常にあらゆる固定観念を疑ってきたのだろう。そんな森山の美学を、長澤はこのように代弁している。

写真って決定的な瞬間を撮るものと思われてるけど、森山さんに言わせれば何気ない日常なんて一瞬たりともない。非日常の連続が日常であって、どの瞬間もシャッターチャンスだと。そういうふうに世界と対峙してる人が撮るのと、何気ない日常と思って過ごしながら“今だ!”と撮るのでは違うんだよね」

森山にとって、シャッターチャンスは無限に隠されている。だから気は抜けないし、ちょっとでも引っ掛かったらとにかく撮る」と本人が語るように、彼の写真には好奇心と緊張感が透けて見える。街中を1時間歩くとしたら何回くらいシャッターを切りますか?」という若林の問いに、結構押すよ。フィルムの頃から多かったけど、デジタルになってさらに多くなった」と森山が答えると、長澤が「数年前にモロッコのマラケシュで森山さんの展覧会があって、その日は1日で1500枚は撮っていましたね」と驚きのエピソードを明かす。

もちろん、どこでも撮りまくるわけではない。ロンドンに撮影するため出向くも、タクシーを降りた瞬間に「OKです」とだけ言って、一枚も撮らずに帰ったこともあるという。独自の審美眼が求めているのは「いかがわしさ」だ。あんまりきちんとしていると、どうでもいいやってなる。例えば新宿を撮っていると、どうしても歌舞伎町の方に行っちゃう。西口のビル街はなかなか行かない」と森山は説明する。

今がおもしろくなければ意味がない

ここで若林から、“60年代の新宿は楽しかった”といった話をよく聞きますが、そこから開発が進んでいった今も変わらず都市は面白いですか?」と、今回のテーマの核心に踏み込んだ質問が飛び出す。森山は「おもしろいね」と即答。そのあとに続いた証言が、この日最大のハイライトだろう。

よく“昔は良かった”とか言うけど、それは昔の話。今がおもしろくなければ意味がないの。カメラマンは今しか撮れないわけで、“昔は〜”なんて言ってる暇はない。自分でキャッチできなくなったら、僕は街頭写真をやめるよね」

さらに森山は、若い人の写真に嫉妬しなくなったらおしまいだよね。口には出さないけどさ、悔しいから」とも話していた。これらの発言には、彼なりの「時代」との向き合い方が集約されている。世界的な名声を手にした今も、ここではない」もっとあるはず」と精力的にシャッターを押し続ける森山。どうして80歳を迎えた今も、ここまで貪欲になれるのか。

森山の欲望を活性化させるもの、それは目の前に広がる欲望だ。渋谷も新宿も、僕から見ると欲望の塊に見えるわけ。僕はよく“欲望のスタジアム”って言い方をするんだけど、街全体に欲望が渦巻いているわけじゃない? それを撮らないわけにはいかない。エロティックな部分も、金銭的な欲望も混在して、氾濫している。だからおもしろい」と彼は語る。こうやって周囲の声に惑わされることなく、内なる欲望とまっすぐ向き合ってきたことが、作品を本物たらしめてきたのだろう。

参加者は今回もU30限定。世界的アーティストの登壇ということで、熱心にメモを取る光景が特に目立ち、トーク後半のQ&Aコーナーでも活発に手が挙がった。
PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA

会場はvol.6に続いて、渋谷ブリッジ内のカフェスペース「No rails / No rules」。ステージと客席の距離が近く、密接な距離感でトークが繰り広げられた。
PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA

machìnaのモジュラー・シンセサイザー。アナログとデジタルを巧みにミックスさせた、即興的なパフォーマンスが彼女の持ち味だ。
PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA

vol.6に続いて、InnovationTeam dot による「グラレコ」が好評。名言連発だったトークの模様を、一目で振り返ることができる。
PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA

ちなみに、上述した『記録』シリーズは、森山の「今日一日に撮影したカットだけで一冊つくってみたい」というアイデアから始まったものだという。そんな取り組みを50年以上前から行っていた彼にとって、今日のInstagramカルチャーはどのように映っているのか。来場者とのQ&Aタイムで、スマホによって写真を撮ることがかつてないほど多くなっている今の時代をどう思うか?」という質問に対し、森山はこのように答えている。

女の人が、食べる前に写真撮るじゃない? それを僕は“いいな、一枚また世界に写真が増えたよ”というふうに見てる。写真は“記録”ですから、もっと氾濫してほしい。一枚でも多くみなさん撮ってください、と思うね」

MUSIC SESSION

電子音楽の歴史に根ざしたサラウンド

ソニー主導の「Future Showcase」で、森山が携わっているアート共創プロジェクト「SHIBUYA / 森山大道 / NEXT GEN(ネクストジェン」が紹介されたあと、ミュージックセッションへ突入。前回のSASUKEに続いて、韓国出身・1988年生まれのYeo Hee(ヨヒ)によるソロプロジェクト、machìna(マキーナ)が登場する。

もともとは“Apple Girl”を名乗り、K-Popアイドルとして動画サイトで人気を博した彼女。そこから紆余曲折を経て、現在は先鋭的なエレクトロニック・ミュージシャンとして東京を拠点に活動している。今年3月に米テキサス州オースティンで開催されたSXSWで彼女のライブを見たという若林は、迫力のあるパフォーマンスが印象的だったと振り返り、今回のテーマを踏まえて彼女にオファーしたという。

そんな期待に応えようと、machìnaも70年代に主流だったQuadraphonic(4chステレオを用いたサラウンドシステムの草分け)を導入。電子音楽の歴史をさかのぼるように、モジュラー・シンセサイザーを用いた挑戦的なセットで本番に臨んだ。こんな環境でパフォーマンスできる機会はなかなかないから、本当に楽しかった!」と彼女は語っている。

パフォーマンスが始まると、まずは不穏でノイズ混じりのアンビエンスが鳴り響く。聴く者を追いかけ回すようなエフェクトは、ピンク・フロイドの『狂気』をうっすら想起させた。本人も「経験する音楽」と語っていたが、四方に配置されたスピーカーによってディープな音響に囲まれると、自分が消えてしまったような錯覚に襲われる。背中のほうから不穏なサウンドが迫ってくるのも、通常のクラブやライブハウスではありえない感覚で新鮮だ。

曲が10分を過ぎたあたりで、太いキックが打ち鳴らされ、雷雨のごとく電子音が響き渡ると、いよいよダンサブルな展開に突入。こういった音楽に不慣れだったのか、最初は呆然としていた観客も、小刻みに体を揺らしだす。そして、シリアスでストイックな音像を貫いたまま15分のセットは終了。machìnaが笑顔を浮かべてお辞儀すると、会場中から拍手が巻き起こる。安易なエンターテインメントに媚びることのない勇気に、彼女の強さを垣間見た気がした。

machìna

大学でジャズを専攻、そしてK-pop シンガーとして活動した後にエレクトロニック・ミュージックに転向。詩的な感覚のボーカルとモジュラーシステムによって作成されたアナログサウンドによって、Machìna (マキーナ)の音楽は、テクノロジーと時間、そして感情のハーモニーを模索する。Machìnaの音楽は国際的な指示を得ており、2018年と 2019年には米国の有名な音楽祭、SXSWに出演を果たした。さらに、2019年にリリースされたアルバム、Archipelago (群島)は、影響力のある音楽雑誌、Pitchfork Media で紹介された。

ABOUTtrialogについて

WHAT’S “trialog”?

trialogとは、実験的な対話のプラットフォームです。

世の中を分断する「二項対立」から、未来をつくる「三者対話」へ。
trialogは異なる立場の三者が意見を交わす空間をつくり、
「ほんとうに欲しい未来はなにか?」を考えます。

代表を務めるのはblkswn コンテンツ・ディレクターの若林恵。
さらに、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也が
共同企画者として参加します。ソニーのサポートのもと、
ジャンルや国境を超えた多彩なゲストを迎え入れたイベントを開催し、
対話のためのコミュニティ形成を目指してゆきます。