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VOL.2 MILLENNIALS & PHOTOGRAPHY

ヴィジョナリー・ミレニアルズ

ミレニアルは、正しく伝わりたい

2018年7月28日、まさかの台風襲来に見舞われたtrialog vol.2の開催当日。会場はクローズしライヴ配信での開催となったが、約45万人の累計視聴者数を数える盛況ぶりを呈した。

ヴィジョナリー・ミレニアルズ」をテーマに集った話者は、写真家を中心にフィジカル/デジタルのパブリッシャーまで、文字通りのミレニアル世代を代表するクリエイターたち。

デジタルクリエイティブのこれからを探る第1回に続く今回の「三者対話」は、日本を含めた世界のミレニアルズが社会をどう捉えているかを理解する格好の機会となった。

PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA
TEXT BY SHUNTA ISHIGAMI

PHOTOGRAPHY BY KAORI NISHIDA

本当」って何だろう?

ミレニアルズ」という括りは、呼ばれる側からするとおそらくとても乱暴だ。試しに「ミレニアル世代」とググってみると「2000年以降に成人、あるいは社会人になる世代を指す」と出てくるが、つまりは同じ世代といわれたところで上から下まで20年以上の開きが生まれてしまう。テクノロジーが加速度的に進化するいま、あらゆる価値観は急速に流れ移ろうわけで、20歳も離れていたら、その括りの中にはまったく異なる思想が生まれうる。

その点において、自分はむしろ「デジタルネイティブ」と呼ばれるべきなのだと言うのは、写真家・小林健太。テクノロジーとの対話〉をモチべーションに活動する、日本の若きクリエイターだ。

デジタルネイティブに共通している特徴のひとつが、飽きる〉ということ。ガジェットもアプリもすごいスピードで登場する。僕らはまるで、テクノロジーとダンスを踊っているようです」

最初のセッションには、小林に加え、ロシア生まれの写真家マリア・グルズデヴァも登壇した。2人の若き写真家が自らの表現を語り、IMA』エディトリアルディレクターの太田睦子が対話を導くセッションは、当初設定されていた「なぜ、いま、彼らはカメラを手にするのか?」というテーマから始まり、彼らが社会に対してどう向き合うかが議論されていく。

テクノロジーの進化に話が及ぶと、マリアは自身の生まれた土地ならではの影響を披露してくれた。わたしたちはたしかにデジタルテクノロジーの進化に直面してきた世代。だけど、それだけではないのでしょうね。わたしが生まれ育ったロシアは、ちょうど激変期。テクノロジーと同じくらい、社会が大きく変化した時代に生まれ育ってきたんです」

それゆえ、社会を〈観察したい〉と欲望を抱き、写真への興味へと昇華させたという彼女。写真集という形態にまとめたのは、当地の伝統や歴史、あるいは日常を写し出した写真だった。ロシアの国境沿いの風景や人々を撮影した写真には、人間と環境の関係性」を読み取って欲しいのだと言う。

国境』は、あくまで人間がつくり出した概念でしかありません。だから私は、伝統や歴史すべてを見て理解することで、何かの解決が見出せると思っているんです」

かたや、自らの手法を「カメラというテクノロジーを通して世界にアクションしている」と語る小林が、自身の表現に込めるのは、イメージ自体の背景にある〈運動〉に向けられた視点だ。テクノロジーの先にある人間性を表現しようとする小林と、人間と環境の関係を表現しようとするマリア。異なる視点で、それぞれ本質を写し出そうとする若き2人のクリエイターは、ミレニアルズが何に目配せをしているかを教えてくれるようでもある。

気鋭の写真家・小林健太。自身の創作において「歴史」がいかに重要であるかを熱く語った。

小林健太とともに登壇したマリア・グルズデヴァ。モデレーションは『IMA』エディトリアルディレクターの太田睦子が務めた。

PHOTOGRAPHY BY KAORI NISHIDA

膨大ななかでの、個人

サーモグラフィーカメラを用いた写真表現を行う写真家・平澤賢治を迎えた次のセッションのテーマは、来たるべきクリエイティブの肌触り。国内外企業のブランディング、広告キャンペーンなどを手掛けるSIMONE INC.代表のムラカミカイエ、そしてウォークマンをはじめとするソニー製品のブランドロゴのデザインに従事してきた、ソニー株式会社クリエイティブセンターの福原寛重が登壇した。

セッションは、平澤がこれまでに撮影した作品を紹介するかたちで進んでいく。マダム・タッソーで撮影した、蝋人形と生身の人間と「温度」で表現した写真を、その人の存在、命を記録するメディアとしてとてもふさわしい」と言う平澤。

一方のムラカミは、スマートフォンのカメラが普及したことの影響に言及する。それによって写真がもっていた社会的な価値が大きく変容しているというのが、彼の意見だ。

自身が扱うコマーシャルフォトの場合、写真の価値は〈欲望をかき立てる〉ことにあると言うムラカミは、こう続ける。

テクノロジーの恩恵で表現の幅が拡がるのはいいんです。ただ、フレームが変わるだけで自分が表現したいものは変わっていない。コンセプトに新しい何かを与えるものはない、という気がするんですよね」

ミレニアルズカスタマーに対し、企業は存在感をいかに示しうるかが問われています。企業は彼らの肌感覚に適う表現をしているのでしょうか? メッセージを発信するとき、ミレニアルたちの感情をくみ取り同じ目線で発信していけるのでしょうか?」

そう問うたムラカミに対して、SNSは大衆に訴えかける装置であると言う平澤。自分は「ほんとうに伝えたい人に手紙を書く」立場でいたいという彼の言葉には、福原もゆっくりと頷いていた。

サーモグラフィを用いたユニークなポートレート作品で海外でも注目を集める写真家・平澤賢治。

クリエイティブ・ディレクターのムラカミカイエ(左)。モデレーションはソニー・クリエイティブセンターの福原寛重(右)が受け持った。

PHOTOGRAPHY BY KAORI NISHIDA

ぼくらは「正しく伝わりたい」

なぜ、若い人たちは紙の雑誌に惹かれているの?」

trialog代表・若林恵の問いかけで始まった最後のセッションは、ヴィジョナリー・ミレニアル」と題した今回の三者対話のハイライトといえるだろう。

ポストSNS時代のパブリッシャーたち」をテーマにしたセッションに参加したのは、中国・上海から来日したインディペンデント出版社『Same Paper』のファウンダー/写真家のシャオペン・ユアン、そしてシャオペンともネット上で親交があるという『Be Inspired!』編集長・平山潤というフィジカル/デジタルの若きパブリッシャーだ。

セッション冒頭の若林の問いに対し、アートブックを編集し紙で出版するシャオペンの答えは、紙のもつパッケージ性だと言う。

紙の雑誌は、明確なメッセージを届けることができる。本当に好きな人に届けられるんです。それに寿命が長い。建築物のように、ずっとそこにあり続けてくれるという感覚がある」

かたやウェブ媒体の編集長を務めている平山も、シャオペンの意見に同意する。

僕のまわりにもZINEをつくる友人たちがいますが、彼らはウェブ上での不本意な拡散に抵抗感をもっているようなんです。だから、自分たちの意見をオフラインに閉じ込めたいと思っている」

平山は自身が身を置くウェブ空間では、一つひとつの記事が断面的に伝播されることが強みだと言う。しかし、同時に、ミレニアル世代の作り手たちがウェブに限界を感じているとも言う。「ぼくらの世代の作り手たちは、SNSでは表現できない部分をつくりたいと思っている。小規模出版のアートブックは、コミュニケーションの手段のひとつなのかもしれません」

壇上では、シャオペンが手がけてきたアートブックが次々に紹介される。例えば1冊まるごと歯ブラシを取り上げ写真家が撮り下ろしたものをはじめ、それらの作品はいずれもユニークでユーモアにあふれている。

ユーモアを効かせたものをつくることで、写真家のネームバリューでなく本を手に取ってもらいたい。その結果として、僕らミレニアル世代がどう世界を捉えているかを提示したいんです」と、シャオペンは言う。

最後に、若林から日本の印象を訊ねられたシャオペンの答えが、こと日本のこれからのクリエイティブがとるべき姿勢を教えてくれるものだった。

日本は、10年前と比べてあまり変化がない印象ですね」と答えるシャオペン。これには思わず「残念!」と若林は嘆息したのだが、シャオペンの意図は少し違っていた。

残念というわけでもなくて、日本には先達がいてコンテクストがある、ということ。中国にはそうした蓄積はなく、自分たちがつくったものがほんとうにいいものなのか、常に自己懐疑的になるんです」

世界に自分たちの声を届けようとするミレニアルが、一方で自身の意見に伝統というレファレンスを求めている。ならば、その先達たる世代には何ができるか。その答えに近づこうとする歩み寄りは、おそらくは継承すべきものが何かを見極めることから始まるのだ。

『Same Paper』のファウンダー/写真家のシャオペン・ユアン。

『Be Inspired!』の編集長を務める平山潤。

開催当日は台風襲来に見舞われ、会場はクローズ。ライヴ配信には多くの視聴者が参加した。

ロシア出身、ロンドン在住のマリア・グルズデヴァ。トーク後、自身の作品を手に。短い東京滞在ののち、最新プロジェクトの撮影のために、シベリアへと向かった。

平澤賢治によるサーモグラフィーカメラを使った作品。生物と無生物の差異が、その熱で表現される。

session 3「ポストSNS時代のパブリッシャーたち」に登壇したシャオペン・ユアンと、『Be Inspired!』編集長・平山潤。

シャオペンはこれまで刊行してきた雑誌やアートブックを持参。雑誌『Closing Ceremony Magazine』では世界中のクリエイターをフィーチャーしている。

次回9月13日木)開催のtrialog vol.3「音と視覚のさまよえる宇宙」には、電子音楽の鬼才「Oneohtrix Point Never(OPN」ことダニエル・ロパティンの登壇が決定している。海外でも珍しいトークイベントへの参加だけでなく、盟友ネイト・ボイスとともに最新コンサート「MYRIAD」のプレゼンテーションも実施。SF作家・樋口恭介もトークに参加し、OPNの謎を紐解く必見のセッションをお届けする。

ABOUTtrialogについて

WHAT’S “trialog”?

trialogとは、実験的な対話のプラットフォームです。

世の中を分断する「二項対立」から、未来をつくる「三者対話」へ。
trialogは異なる立場の三者が意見を交わす空間をつくり、
「ほんとうに欲しい未来はなにか?」を考えます。

代表を務めるのはblkswn コンテンツ・ディレクターの若林恵。
さらに、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也が
共同企画者として参加します。ソニーのサポートのもと、
ジャンルや国境を超えた多彩なゲストを迎え入れたイベントを開催し、
対話のためのコミュニティ形成を目指してゆきます。