trialog Partnered with Sony
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VOL.4 FINANCE & WORK

オルタナティブな経済をめぐって〜お金とクリエイティブの新しい関係

「お金」を考えることは、「生き方」を考えること

しばしば「クリエイター」と「仕事」は切り離されて考えられるが、フリーランス化が進む現代においてはむしろクリエイターこそが新たな仕事の実践者だといえる。だからこそ実験的な対話のプラットフォームであるtrialogは11月6日に「仕事」と「お金」をテーマとして3つのセッションを実施した。

3つのセッションには気鋭のスタートアップを率いるフィンテックの俊英に音楽プロデューサー、文化人類学者など計4名のゲストが登場。今回はアンダー30であることが参加条件だったこともあり、会場にはこれからの働き方/生き方に頭を悩ませる若者が多数集結した。セッション後は会場から次々と質問が飛び出し、同時配信が行なわれていたTwitter上からも多くのコメントが寄せられた。

果たして、これからの「仕事」と「お金」はどんな姿をしているのか。クリエイティブとお金の関係性はどのように変わっていくのだろうか。今回は特別に3つのセッションを3回にわけてレポートしていく。まずはSESSION1「 お金が変わる。働くが変わる。生きるが変わる」の様子をお届けしよう。

PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA
TEXT BY SHUNTA ISHIGAMI

SESSION 1に登壇した中村貴一(左)と康井義貴(中央)。ふたりはこの日が初対面だった。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

テクノロジーが実現する新たなお金の流れ

SESSION1「お金が変わる。働くが変わる。生きるが変わる」では、フィンテックを軸に「お金」のあり方が変わることでわたしたちの仕事がどのように変わっていくのか議論が展開された。ゲストとして登場したのは、Origami代表取締役社長の康井義貴とBraincat代表取締役の中村貴一だ。

康井が代表を務めるOrigamiはスマホ決済サービスを提供するプラットフォームをつくっており、近年その規模は着々と大きくなっている。他方の中村が手がける「Gojo」は、クラウドファンディングのようなかたちで家族やサークルのようなコミュニティでお金をシェアするサービスだ。両者は異なるサービスを提供しながらも、従来とは異なるお金の流れを生み出そうとしている。

とりわけ近年は世界中でキャッシュレス化が進んでいるといわれるが、お金が現金という「フィジカル」からキャッシュレスという「デジタル」になることで何が起きるのだろうか。康井は「かつて情報通信の領域で起きたことが銀行でも起きるんだと思います」と語る。

かつては数十円払って切手を買うとか、1分数十円払って電話をかけるとか、情報伝達のコストが高かったですよね。でもインターネットによってそれがタダになり、情報伝達の根源的な価値が変わったんです。いまの金融業も基本的には手数料ビジネスですが、キャッシュレスによって手数料がゼロに近づいていく。その結果、手数料ではなくお金の流れに乗っている情報こそがぼくらの未来になるのかなと思っています」。康井はそう語り、Origamiが未来の銀行を目指していることを明かした。

一方のGojoは、かつて病気を患い入院していた中村がニッチな保険をつくるために始めたものだった。仮説検証しながら最初はGojoを動かしていたんですが、途中で保険を運営するのは難しいことに気付かされました。米国だと自家保険といって自治体などがつくった保険に入るのが一般的ですが、日本は98%が保険会社による保険で成り立っているので限界があるなと。そこでコミュニティ型のクラウドファンディングという方向に向かっていったんです」

しかしその結果、町内会やサークルなど社会のなかにはオンライン化されていないコミュニティやお金の流れがあることに中村は気づいたのだという。こうして動き始めたGojoは一種のセーフティネットとしても機能しつつ、誰かを支援する基盤としてオルタナティブなお金の流れを生み出している。

康井義貴|YOSHIKI YASUI

1985年トロント生まれ。シドニー大学留学、早稲田大学卒業後、米大手投資銀行リーマン・ブラザーズでM&Aアドバイザリー業務に従事。その後、シリコンバレーの大手ベンチャーキャピタルDCM Venturesで米国、日本、中国のスタートアップへの投資を手掛ける。2012年、OrigamI設立。一般社団法人キャッシュレス推進協議会理事、経済産業省 産業構造審議会商務流通情報分科会委員も務める。
PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

イベント当日は生憎の雨。しかし、雨にもかかわらず会場は満席となりアンダー30の人々が多数集まった。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

お金が変わることは、文化が変わること

フィンテックにおいてしばしば取り上げられるのは、中国のアリババが決済アプリ「Alipay」を中心に展開している先駆的な取り組みの数々だ。若林が「Alipayが決済の仕組みに融資のようなサービスを組み合わせたり、これからの銀行はApp Storeのようになると海外では言われている。Origamiもそういうことを考えてるんだろうか?」と尋ねると、康井は次のように語った。

そうですね。ぼくらの決済の基盤の上に保険や取引所が乗っていくことになるんじゃないかと思います。でも、お金にはいろいろな流れがあって。オンラインでお金を使うEコマースと、オンラインでお金を貯めるネットバンキング、オフラインでお金を使う決済とそれぞれ経済規模が違うんです。それがインターネットの力によって垣根がなくなり、プラットフォームが徐々に整備されていくんじゃないかと思います」

新たなプラットフォームとなるべくOrigamiは現在銀聯国際との提携により海外への展開を計画しており、来年の第一四半期でグローバルで750万の加盟店で利用を可能にする見込みだ。積極的に海外へ進出しようとする康井は、かつて製造業で覇権的な起業を輩出していた日本が通信の領域で欧米に遅れをとってしまった悔しさも抱えていたのだという。

しかし、さまざまなサービスが乱立する現代において規模を拡大させていくことは決して容易ではない。Origamiもコンビニチェーンのローソン、牛丼チェーンの吉野家等と提携しキャンペーン施策を行なうなどマーケティングを強化することで日々ユーザーを増やそうとしている。中村は同じ起業家として康井に対するリスペクトを表しながら「ローソンのキャンペーンは秀逸で、参考にしたいなと思いました」と笑う。

キャッシュレスやクラウドファンディングを論じようとするとわたしたちはつい「金融」や「経済」の変化を考えてしまいがちだが、康井や中村がつくりだそうとしているのは新たな「文化」なのかもしれない。だからこそ、サービスを広げていくためには時間もお金もかかるのだ。

キャッシュレスは新しい文化ですよね」と中村は語る。日常の延長として効率化や機械化を進めるのはわかりやすいんですが、仕組みを変えるのは難しい。Gojoもサークルの延長と考えればわかりやすいんですが、コミュニティと考えるとややこしくなってくる。それは新しい文化のサービスだからなんだと思っています」

中村貴一|TAKAKAZU NAKAMURA

1986年生まれ。2014年、世界初の音楽機材のオンライン試聴サイトを開発し、Movida Japanのアクセラレータープログラムに採択されたことをきっかけに起業。 その後、コンサルティング会社を経て、フリーランスエンジニアとして独立。現在は、メルカリ、GMO Venture Partners、家入一真などから6,500万円を調達し、相互扶助コミュニティサービス「Gojo」を提供している。
PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

小さなころから「お金」のあり方に関心をもち続けてきた康井のトークに、来場者は熱心に耳を傾けた。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

お金は「身近」なものになっていく

新たなサービスが新しい文化をつくることで、わたしたちと「お金」の関係性も変わっていく。若林は、Alipayが資産運用のアプリを提供しているようにこれからお金はどんどん「身近」なものになるのではないかと語る。康井は若林の発言を聞いてうなずきながら「そうするとお金の流動性が担保されて、動かしやすくなるんですよね」と言い、自身がお金の流れを意識し始めたきっかけについて語った。

最初にお金ってなんだろうと考えたのは16歳のころでした。ぼくにとって旅行に2万円使うのは贅沢だったけど、資産価値の高いスニーカーに2万円使うのはまったく違う価値観だと思っていました。これはPL(Profit and Loss statement:損益計算書)とBS(Balance Sheet:貸借対照表)のどちらで考えるかなんだなと。そこから始まって大学では会社の値段を考えたり、就職してからはコーポレートファイナンスに携わったり。資産の動きをかなり意識するようになりました。お金はただ寝かせておくよりも使った方がいいことは間違いないんですが、普通は債権や株を買う方法もよくわからないし、すごく大変なんですよね。でもアプリでお金を動かせるようになれば債権や株をすぐ買えるようになる。お金が身近になることでいろいろなことが変わるなと日々感じています」

一方の中村は、お金が身近になることで康井が語ったような資産運用とは別のお金の流れも生まれるはずだと主張する。人間は経済合理性だけで動いているわけではなくて、ソフト面の充実もありますよね。Gojoを運営していると、金融的な観点から見ると意味がわからない行動が起きてるんですよ。労働って働いて対価をもらうのが当たり前ですけど、自分でお金を払って働く人がいるんです。たとえば銭湯を手伝うプロジェクトでは北海道から来る人もいて、飛行機代と会費を払った上でさらに働いている。でもこのコミュニティに貢献して成果を出していたりするんです」

新たな銀行の構想を明らかにする康井に、個人でも法人でもない新たな存在の可能性を提唱する中村。ふたりのトークはアンダー30の若者に大きな示唆を与えた。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

わたしたちはなぜ働くのか

OrigamiやGojoのような新たなサービスによって「お金」はどう変わるのかという問いから始まったSESSION 1は、転じてわたしたちはなぜ働くのか、わたしたちにとって「仕事」とは何なのかという問いへとたどり着いた。

お金やキャリアのために働くのはもったいない」と語るのは康井だ。仕事人として優秀な人であればあるほど、生きているあいだのほとんどの時間を仕事に費やして働いている。もっと自分の身に余るような大義名分があったり、なにか成し遂げたいことがあったりするから仕事をするのが人生を充実させるうえでは重要だと思っていて。有名な話ですが、ケネディ大統領がNASAのスペースセンターで清掃員に何をしているのか尋ねたら『俺は人を月に送っている』と言ったらしいんですね。どんな職業でもいいけど、どんなミッションのために集団に所属しているのかが楽しい部分だなと思っています」

中村も康井の発言に賛同し、自身も経済的な報酬のことは気にしないようになったのだと語る。かつてエンジニアとして活動していた中村は、収益ではなく面白さで仕事を判断するようになった。その結果、仮想通貨の開発やエストニア政府の基盤システム『X-Road』の支援など中村の仕事は多様なものになっていく。そうすることで、どんどん面白いことが起きたんです。だからいまは最低限暮らせるお金があればいいんじゃないかと思っています」と中村は語る。

ふたりの話を聞いた若林は「自分なりのミッションは大切だよね」と同意しつつも、自分のためだけに働くことは多くの人にとって難しいことでもあると語る。自分のためではなく、他人のためだからこそ動けることもあるのだ、と。おそらくはOrigamiやGojoに集まってきた人々も単に金銭のためだけに動いているのではなく、康井や中村のミッションのために働いているのだろう。

事実、康井も中村も人を集めようとするときはミッションをきちんと語っているのだという。康井にとってのミッションは「未来の金融機関」をつくることであり、これを始めるのに必要な資金を集めるために決済サービスから徐々に新たな仕組みづくりを始めている。他方の中村は、個人/法人だけでなく「コミュニティ」をひとつのセクターにしたいのだと語る。コミュニティが新たなセクターになれば、そこから新たな銀行やサービスも生まれてくるだろう。自身のミッションを説明するふたりの言葉は非常に論理的で明晰だ。

お金」の変化を考えることは、経済の変化を考えることではない。お金」の変化は「仕事」の変化をもたらし、仕事」の変化は「生き方」の変化をもたらす。これからの「お金」のあり方を考えることは、特に今回trialogに集まったアンダー30の人々にとって、とりもなおさず自分たちがどう生きていくかを考えていくことにほかならないのだ。

ABOUTtrialogについて

WHAT’S “trialog”?

trialogとは、実験的な対話のプラットフォームです。

世の中を分断する「二項対立」から、未来をつくる「三者対話」へ。
trialogは異なる立場の三者が意見を交わす空間をつくり、
「本当に欲しい未来とは何か」を考えます。

代表を務めるのはblkswn コンテンツ・ディレクターの若林恵。
さらに、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也が
共同企画者として参加します。ソニーのサポートのもと、
ジャンルや国境を超えた多彩なゲストを迎え入れたイベントを開催し、
対話のためのコミュニティ形成を目指してゆきます。