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VOL.4 FINANCE & WORK

オルタナティブな経済をめぐって〜お金とクリエイティブの新しい関係

クリエイティブは「お金」をアップデートしうるか?

11月6日に行なわれたtrialog vol.4「オルタナティブな経済をめぐって〜お金とクリエイティブの新しい関係」。今回は4人のゲストを招聘し、お金」と「仕事」をテーマに侃々諤々の議論を繰り広げた。

今回は特別に3つのセッションを3回にわけてレポートしてゆく。SESSION 1「お金が変わる。働くが変わる。生きるが変わる」に続いて行なわれたのは、SESSION 2「未来の会社/会社の未来」だ。

本セッションに音楽プロデューサー/DJのtofubeatsがゲストとして参加したほか、trialog共同企画者でありゲームクリエイターや音楽プロデュサーのキャリアをもつEnhance代表・水口哲也も登場。経営者」でもあるふたりの目に、会社」や「お金」はどう映っているのか。

PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA
TEXT BY SHUNTA ISHIGAMI

3つのセッションのなかで来場者からとりわけ注目されたのが本セッション。客席には、trialog vol.2に登壇した編集者・平山潤の姿も。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

独立すること=権利を考えること

今回行なわれた3つのセッションのなかでもとりわけ来場者から注目されたのが、SESSION 2「未来の会社/会社の未来」だ。本セッションは音楽プロデューサー/DJのtofubeatsをゲストに迎え、Enhance代表・水口哲也と若林恵がクリエイターと「お金」について議論を交わすもの。クリエイターとして活動しながら自身の会社をもつ「経営者」でもあるtofubeatsと水口哲也にとって、会社」や「仕事」はいかなる意味をもっているのだろうか?

数年前に自身の会社HIHATTを設立したtofubeatsにとって、いわば水口はクリエイターとしても経営者としても「先輩」といえる存在だ。水口はプロデュースやパブリッシングを司るEnhanceとアーティスト集団Resonairというふたつの会社の代表を務めている。若林から自分で会社をつくるメリットを尋ねられた水口は「権利について考えるようになったこと」だと語る。

会社にいたころは権利やお金のことを他人任せにしていたんです。当時はクリエイティブだけやってビジネスはやりたい人がやればいいと思っていたけれど、実は両者が一体化していないといろいろな問題が出てくることがわかった。お金ってひとつの“エンジン”なので、金儲けをしたいわけじゃなくても著作権や商標権について理解しておかないといけないんだなと」

とりわけ音楽においては原盤権や出版権に加え演奏にまつわる権利や隣接権など権利の構造が複雑だ。わざと難しくしてるんじゃないかと思った」と笑う水口に対し、tofubeatsは「つくっている人のためにあるものじゃないですよね」と同調する。

高校生のころから音楽活動を行なってきたtofubeatsは、さまざまな取引を行なうなかでときには不利な条件を飲んでしまったこともあっただろう。しかし、tofubeatsは「そういう経験をしないと勉強できないんですよね」と語る。確定申告も自分でやっていましたけど、やはり自分で独立するところまでいかないと細かい部分はよくわからなくて。税理士の人に任せることもできるんですが、自分で書類を読めないとできないことも多かったりするので、ひとくちに“手間”とも言ってられないんじゃないかと思います」

水口とtofubeatsの経験はクリエイターとお金をめぐる困難を浮き彫りにしているが、これは「クリエイター」だけが直面している問題ではない。若林が「これからフリーランサーが増えていくなかで、おふたりが経験されてきたような会計や確定申告の手間は膨大な量になってくる」と指摘するとおり、これはクリエイターのみならず社会全体の問題でもあるのだ。

最近、いい作品をつくるためにはいいチームをつくらないといけないんだと痛感していて。そしていいチームをつくるにはいい仕組みが必要。法人が権利を一括して管理しないと混乱してしまうけれど、本当に優秀な人と仕事をするためにはロイヤリティをライフタイムで払うとか、きちんと利益をリターンさせる仕組みをつくらないといけないと思います」

そう水口が語るとおり、これまでの仕事やお金は「会社」という存在を中心として整備されてきた。だからこそ、単に働き方や仕事のあり方だけでなく大きなアップデートがいま求められているのだろう。

トーフビーツ|tofubeats

1990年生まれ、神戸在住。10代からインターネットを中心に活動を行い、ジャンルを問わず様々なアーティストのリミックスを手掛ける。プロデューサーとしても幅広いアーティストに楽曲提供/アレンジで携わり、TVCMやWebコンテンツの音楽制作等も多数。2018年、ドラマ「電影少女-VIDEO GIRL AI 2018-」や、映画『寝ても覚めても』の主題歌・劇伴を担当するなど活躍の場を広げ、10月3日に4thアルバム「RUN」をリリース。
PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

今回のケータリングもこれまでと同じく「The CAMPus」によるもの。グリーンが映えるメニューは美味しいだけでなく目にも鮮やかだ。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

当事者意識」がもたらすもの

tofubeatsによれば、独立によって変わるのは単にお金や権利の問題だけではない。独立によって制作との向き合い方、なかでも「当事者意識」のあり方が変わるのだという。

最も当事者意識をもてる環境が、“独立”ですから。大きな組織でも当事者意識をもたせられるんですが、徐々に難しくなってきている。優秀なクリエイターにはきちんとロイヤリティを払いますよという誠意があれば、チームに入りたいという気持ちも生まれますが、そういう仕組をつくるのは難しいし実践できる人が少ないのも事実です」

水口もtofubeatsに賛同し、そもそも会社員という仕組みがクリエイティブと合わないんですよ」と笑う。アンダー30の若い人は自分の興味に従ってどんどん動けばいいと思うけど、会社のなかでいい作品をつくっても退職するときにリセットされてしまうわけですから。法人と個人の区分がクリエイティブにおいてはいまのままだと無理がある。クリエイターが年をとったら幸せになれない仕組みなんですよね。だから身体や心を壊してしまう人がいっぱいいて」

会社に勤めて賃金をもらうことは、必ずしも自分がつくったものの対価をもらうことを意味しない。もちろんそれ故に「安定」が約束される側面もあるが、会社の決める賃金と自分がつくっているものの乖離が大きくなれば違和感が増していくのも事実だろう。水口が「一番のモチベーションになるわけではないけど、お金は重要なもの」と語るように、クリエイティブにとってお金は最大の目的にならずとも、決して軽視していいものでもない。

tofubeatsにとってはそもそも、クリエイティブと「経済」は切り離せないものだったという。高校生のころにCD-Rをつくって売っていて、夜行バスで移動して遊んでお金がなくなっても、CD-Rを売ればお金ができる。それが経済の原点でした。そこから始まってCDをお店に卸してお金をもらうとか、少しずつ規模が大きくなっていった。ぼく自身もお金が本質だとは思いませんが、自分のやった分が返ってくる感じが経済的にも連動していかないとモチベーティブになれないのかなと思います」

自分のつくったものとその経済的な報酬が連動していくことで、制作における当事者意識が増していくのも事実だろう。その当事者意識は単にお金を稼ぐことやいい作品をつくることだけではなく、作品そのものの未来を考えるうえでも重要になってくる。

自分の作品を守らなきゃという当事者意識も大事だと思うんです。そう水口は語り、次のように続ける。誰かが作品を守ってくれるわけじゃないですから。所属していた会社が潰れたり買われたりすると、自分の子どものようなIP(知的財産)が漂流し始める。自分たちが一生懸命つくったものが“家なし子”の状態になって心ない人に切り売りされてしまうのは辛いことですよね」

北野宏明|HIROAKI KITANOM

ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長。特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構 会長。沖縄科学技術大学院大学 教授。ソニー株式会社執行役員。ロボカップ国際委員会ファウンディング・プレジデント。国際人工知能学会(IJCAI)エクゼクティブ・コミッティー・メンバー。世界経済フォーラムAI&Robotics Council 委員。
PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

独立することでより一層当事者意識が高まったと語るtofubeats。同氏が突き当たった“壁”は、今後多くのフリーランサーが直面するものでもあるだろう。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

クリエイティブのための新たな経済システム

では、わたしたちと異なる環境における「幸福」はどう捉えるべきなのだろうか。若林が「伊藤穰一さんはGDPというものさし自体が駄目なんだと言っていますよね」と指摘するとおり、近年はGDPのような基準では測れない幸福の重要性を主張する声もある。

tofubeatsと水口の実践からもわかるとおり、クリエイティブと経済の関係性はテクロジーの発展や社会・文化の変化に合わせてアップデートされてこなかったのかもしれない。しばしばこれからは「個」が経済の主体となると言われているが、だからといってクリエイティブにおいてクリエイターが主権を完全に手に入れているとはいえないのも事実だ。

若林が「tofubeatsくんがどうサバイブし権利まわりを扱っていくのかは後続アーティストにとってもひとつの“試金石”になるんだと思う」と語るとおり、インターネットを出自としてオルタナティブな道を切り開いてきたtofubeatsの背負うものは大きい。しかしそんなtofubeatsに対し水口が「でも、意外と楽しくない?」と笑うように、独立して活動することは決して辛いことだらけではないのだろう。

失敗しても、会社に迷惑がかかるわけじゃないですですからね(笑。いま契約しているワーナー(ミュージック・ジャパン)さんにはかなり歩調を合わせていただいてますし、そもそもわがままなものをつくっているわけですから。昔は独立すると流通から干されることもあったといいますが、こんな生意気なことを言ってもやっていける時代になったのはラッキーですね」

そうtofubeatsが語ると、水口も「アーティストはそういう思考になっていくのかなと思います」と語る。水口は自身のキャリアを通じて、ゲーム」の流通が変わっていくさまを最前線で眺めてきた存在でもある。昔は自分たちでものをつくって世界に届けるのは不可能だった。ゲームもパッケージをつくってバイヤーに気に入ってもらわないといけなかった。でもいまは世界中に瞬時に届けられるし、少人数でクリエイティブなものをつくれる」

今後、新たなテクロジーの登場によってアーティストにとってさらに優れたシステムが生まれる可能性もある。なかでも水口は「ブロックチェーン」に期待しているのだという。ぼくの頭のなかではもうブロックチェーン化されてるんですけど(笑、お金と権利がセットで一元的に管理できるのが理想形なんです。この作品でこの人にいくら払うかブロックチェーンに紐づけて時間を割かずに処理できたらなと」と水口が語るように、まだまだアーティストと経済のシステムはアップデートされる余地がありそうだ。

次世代クリエイティブの新たなコミュニティをつくるべく2018年3月に始動したtrialogは、今回で4回目を迎えた。PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

オルタナティブな「お金」に向かって

セッション終盤では、会場からの質問も受け付けられた。なかでも議論を呼んだのは、お金は価値としてどれくらい重要なのか?」という質問だ。音楽におけるビジネスモデルや価値のあり方は多様化しており、なかには米国のチャンス・ザ・ラッパーのように「音源を売らない」アーティストも現れている。果たして制作のフィードバックが「お金」である必要はどれくらいあるのだろうか。

たしかにチャンス・ザ・ラッパーのやり方はインパクトがあると思いますけど、単純にお金がなければアルバムをつくれないしライブやツアーにもいけないですからね」とtofubeatsは答える。ただ、1やったら1もらうというやり方ではなくなっているし、評価が集まらないのにお金は集められるようなやり方も通用しない。外側だけよく見せるようにしていることは見抜かれるようになってしまった。もちろん評価は大事なんですけど、つくるために費用がかかることは変わらないでしょうね」

他方の水口は、お金に色がついていたらいいのになと思うんです」と独自のアイデアを明かす。貯めておくと利子がついていくような資本主義的なお金と、クラウドファンディングのように気持ちで動いていくお金は種類が違いますよね。お金がもっと量子化していって、新しいお金の流通が生まれるといいなと。人間の血液と同じ役割をお金は担っているので、どう循環させていくかが大事になるのかなと思います」

この水口のアイデアを聞いて、tofubeatsも「たしかに『お前頑張ってんな』と思って払ってもらえるお金のほうが嬉しいですしね。ぼくはbandcampが好きで頑張ってるなと思うアーティストにはたくさんお金を払うんですけど、そういうツールがあるといいですね」と語った。わたしたちは「お金」と言われると(通貨の種類が異なったとしても)単一の交換可能なお金を想像してしまうが、別の可能性も本来は残されているはずなのだ。

クリエイターと「会社」や「仕事」の関係性を問い直すこのセッションは、単にフリーランサー化が進む世界の行く末を示唆しているだけではない。tofubeatsと水口哲也はクリエイティブを通じて、オルタナティブな「お金」をも夢想しているのだ。

ABOUTtrialogについて

WHAT’S “trialog”?

trialogとは、実験的な対話のプラットフォームです。

世の中を分断する「二項対立」から、未来をつくる「三者対話」へ。
trialogは異なる立場の三者が意見を交わす空間をつくり、
「ほんとうに欲しい未来はなにか?」を考えます。

代表を務めるのはblkswn コンテンツ・ディレクターの若林恵。
さらに、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也が
共同企画者として参加します。ソニーのサポートのもと、
ジャンルや国境を超えた多彩なゲストを迎え入れたイベントを開催し、
対話のためのコミュニティ形成を目指してゆきます。