trialog Partnered with Sony
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VOL.5 TEAM BUILDING

新しいクリエイションのための、新しいチームのつくりかた

チームづくりには「クリエイティブ」が必要だ

従来型の企業組織が崩壊しフリーランサーが増えていく将来、わたしたちと「会社」や「組織」の関係はどう変わっていくのだろうか? trialog vol.5は、これからのチームビルディングについて考えるべく音楽家の中村佳穂やWhatever共同設立者の川村真司ら豪華ゲストを招聘しふたつのセッションを実施した。

パラレルキャリア、副業、コラボ、チーム、アライアンス……わたしたちはこれからいかに働き、いかにチームをつくっていけるのか。ふたつのセッションからは、チームづくり」そのものに問われるクリエイティブのあり方が見えてきた。

PHOTOGRAPHS BY YURI MANABE
TEXT BY SHUNTA ISHIGAMI

2018年3月のSXSWから始まった実験的な対話のプラットフォーム、trialog」が一周年を迎えた。3月27日に行なわれた第5回「新しいクリエイションのための、新しいチームのつくりかた」は、これからの「チームビルディング」がテーマ。働き方や組織のあり方が変わっていくなかで、わたしたちはいかに仲間をつくってコラボレーションしていけるのか議論が繰り広げられた。

今回行なわれたふたつのトークセッションには、豪華なゲストが登場。働き方」や「組織チームビルディング」について語られたふたつのセッションは絡み合い、狭義の「仕事」のみならずわたしたちが「社会」や「他者」とどうかかわっていくべきかが見えてきた。

SESSION 1

企業で働くこと、自分で働くこと

SESSION 1「仲間が私を成長させてくれる」に登場したのは、気鋭の音楽家・中村佳穂と、パラレルキャリア女子」として知られる正能茉優。trialog vol.4に登場したtofubeatsともかつてコラボレーションした中村は、ソロ、デュオ、バンド……とひとつのスタイルにとらわれずさまざまな形態でさまざまなミュージシャンとともに作品をつくってきた。他方の正能は大企業の社員として働く傍ら、自らが学生時代に創業したハピキラFACTORYでは代表取締役として地方の商材のプロデュースに携わってもいる。

従来の働き方に縛られず活動するふたりは、どのように「組織」や「仕事」と向き合っているのか。たとえば大企業と自身の企業というふたつの組織のなかで働く正能は、その仕事の違いを次のように説明する。

自分の会社の場合は、決めること自体が仕事。だから自分の責任のもとでいいことも悪いこともすべて決めなきゃいけない。でも大企業の場合は、ある程度枠組みが決められている。だからこそ、どう楽しくするか、どう面白くするかを考えることに力を注げます」

正能にとって、大企業で働くことは単に巨大な組織の「歯車」として消費されることではない。自分の会社ではできないこともできる場所という魅力が大企業にはあるのだと正能は語る。

他方の中村は、会社入ろうと思ったことがないと語り会場を驚かせた。幼稚園のころ早熟な自身の才能に気づいた中村は、当時自分が得意としていた「絵」か「音楽」で生きていくことを決意していたのだという。そんな中村にとって、音楽」はわたしたちにとっての「仕事」とは異なる存在としてある。

仕事と思ったことがないので、自分から意識的にそう呼ばないよう心がけています。ライブに呼ばれるときも“現場”という言葉は使わない、とか。強いていうならライフワークというか、自分に与えられた役割を行なっている感じです」

中村佳穂|KAHO NAKAMURA

数々のイベント、フェスの出演を経て、その歌声、音楽そのものの様な彼女の存在がウワサを呼ぶ京都出身のミュージシャン、中村佳穂。ソロ、デュオ、バンド、様々な形態で、その音楽性を拡張させ続けている。ひとつとして同じ演奏はない、見るたびに新しい発見がある。今後も国内外問わず、共鳴の輪を広げ活動していく。2016年、『FUJI ROCK FESTIVAL』に出演。2017年、tofubeats『FANTASY CLUB』、imai(group_inou)『PSEP』、ペトロールズ『WHERE, WHO, WHAT IS PETROLZ?? -EP』に参加。2018年、自身のレーベル「AINOU」をスペースシャワーミュージック内に立ち上げ、同タイトルのアルバムを11月に発表した。
PHOTOGRAPH BY YURI MANABE

わたし」ではなく「わたしたち」

生業」として日々音楽に携わる中村は、特定のチームをつくるのではなく作品ごとにさまざまなアーティストとチームをつくることで知られている。モデレーターを務める若林の「音楽をつくるときはどんな基準をもって相手を選ぶんでしょうか?」という問いに対し、中村は「自分を肯定してくれる人」と答えた。

自分を肯定してくれる環境をつくりたいので、わたしの音楽を聴いて肯定してくださった方と一緒に組むことが多いです。あとは、自分が定めている将来像のイメージに一番近づけるメンバーを探しているというか」

そう中村が語るとおり、自分のやりたいことに賛同する人とのコラボレーションは理にかなっている。ただし、賛同してくれる人ならなんでも引き受けてくれるわけでもないだろう。若林は「逆に、自分はその人たちに何を与えられると思います?」と再び中村に問う。

中村は「不安なのでその都度確認してしまうんですよね」と笑いながら、他人の人生を拘束することに不安を覚えると語る。だから毎回メンバーを変えているのかもしれないですね。自分に自信があるわけではないので、たとえ同い年であってもこれくらいの期間あなたの時間を頂くけれど了承してくださいますかと聞いてしまうんです」

同様の問題は、会社組織においても発生しているはずだ。しかし、正能は主語を「わたし」ではなく「わたしたち」にするよう心がけていると語る。わたしとあなた」ではなく「わたしたち」がどうすべきかを語ることで、経営面でパートナーと揉めることはなくなるはずだ、と。

加えて、正能は、自身の会社のメンバーを増やすつもりはないと語った。会社を大きくすることって幸せなの?と思ってしまって。わたしは自分の目に見える範囲、手の届く範囲で、モノをつくっていきたいです。でも、それがただのちっぽけな存在になってしまっては悲しいので、誇り高き小ささ』を保っていきたい。自分たちはあくまでも小さいチームでありながら、大きなクライアントさんと仕掛けていくことで、社会に何らかの意味のあることはしたいですね。どうやってその構造をつくっていけるのか、常に考えています」

チームや組織は、自分のためだけにあるのではない。どんな人/組織と働くか考えようとするとしばしば自分が得られるものを考えてしまいがちだが、わたしたちは人から仕事仲間から何かを得ていると同時に、自分もまた何かを与えていることを忘れてはならないだろう。

正能茉優|MAYU SHONO

1991年生まれ、東京都出身。大学在学中、地方の商材をかわいくプロデュースし、発信・販売するハピキラFACTORYを創業。現在はソニーモバイルの会社員でもありながら、自社の経営も行うパラレルキャリア女子。最近では、慶應義塾大学大学院特任助教として、「地域における新事業創造」をテーマに活動中。
PHOTOGRAPH BY YURI MANABE

会社は人を「成長」させるのか?

ふたりの話を聞いた若林は、会社」のあり方が徐々に変わっているのかもしれないと語る。かつて会社は人を大人として成長させていく機能をもっていた」と若林が語るとおり、以前は、新入社員が先輩から仕事のみならずさまざまなことを教わることで人が「大人」に成熟していく場として会社があった。しかし、その機能を会社が手放しつつあるからこそ、若い人にとって自分を成長させる空間をどうつくるかが重要になっていると若林はつづける。

そんな若林の問題提起に対し、正能は「会社」ではなく「社会」のなかでそういった成長が生じるのではないかと応じた。これまでは先輩後輩で「貸し借り」が行なわれていたとすれば、いまは社会との「貸し借り」が生じているのではないかと正能は語る。

わたし自身、社会に助けてもらっている感覚は強くあります。実力が足りないけどチャンスを頂けるというのは、その時点で“借り”なんです。だからそれを少しずつ返したいと思う。社会に対する貸し借りのバランスがとれているのがかっこいい大人かなと思います」

他方の中村も、自分が学生時代に多くの大人からサポートされてきたからこそ、今度は自分が下の世代にエネルギーを還元していきたいと語る。しかし、常に自分を成長させてくれる仲間を見出さんとする中村の姿勢は、捉えようによっては「自分本位」だと言われる可能性があるかもしれない。その可能性に対し中村は「“上がっていく”という感覚ではないんです」と答える。

メンバーを変えることでステップアップするわけじゃない。わたしにとっては武器を魔法の杖からナイフにしますみたいな変化であって、“木の棒”からランクアップさせるわけじゃないんです。だから目的のために人を使うわけではないですね」

そんな中村に、いい武器を集めたいわけじゃないよね」と正能も賛同する。武器はあくまでも横並びで、この戦いならこの武器みたいな相性の問題。それに自分が主人公で誰かを武器として使っているわけじゃなくて、お互いがお互いの武器なんですよね。わたしの武器とあなたの武器で戦えば、勝てそうじゃない?って」

正能は「わたしの戦いじゃなくて、わたしたちの戦いなんです」と続け、ふたたび「わたし」から「わたしたち」へ主語を広げてみせる。もちろん、常に主語をそう拡張できるとは限らない。しかし、そうした主語の拡張にこそ、これからのチームのあり方のヒントが隠されているのかもしれない。

これまでのtrialogと同様、農業の未来を担う若者を育てるプラットフォーム「The CAMPus」が会場のケータリングを担当している。今回は3月ということもあり春らしいメニューが並んだ。PHOTOGRAPH BY YURI MANABE

前回に引き続き今回も参加者はU30限定となったtrialog。卒業を控えた大学生や仕事を始めたばかりの社会人も多く、これからの働き方をめぐるトークへ参加者は熱心に耳を傾けていた。PHOTOGRAPH BY YURI MANABE

幅広いジャンルからゲストが登壇していることもあり、参加者が興味をもっているトピックもさまざま。会場からはしばしば質問も飛び出した。PHOTOGRAPH BY YURI MANABE

トークセッション後は、いつもと同じく懇親会が開かれた。短い時間ながらも盛んに交流が行なわれ、会場のあちこちで話し込む人々の姿が見られた。PHOTOGRAPH BY YURI MANABE

クリエイターにとっての幸せ

つづくSESSION 2「仲間と組織の曖昧な関係」では、ファイナンス」や「契約」から組織とクリエイティブの関係が紐解かれた。ゲストとして登壇したのは、WHATEVER Co-Founder / CCO・川村真司と、元ほぼ日CFO・篠田真貴子。

世界中のクリエイティブエージェンシーで働き、PARTYやWHATEVERなど自身で組織を立ち上げた川村は、さまざまな企業でクリエイティブと組織の関係を見てきた。一方の篠田は、コーポレート部門というバックオフィスからノバルティスやネスレなど名だたる大企業の動きを見てきた稀有な存在だ。トークセッションは、川村にとっての組織の魅力を紐解くところから始まった

自分で手を動かすのが好きなので、お金がない話でもやりたいことはやりたくなっちゃうんです。その熱量を共有できる仲間と一緒に組織をつくれているのは嬉しいですね。みんながすべてのプロジェクトを自分ごと化してくれるというか。ぼくは会社のプロジェクトと自分のプロジェクトという切り分けをしたくないし、“ME”じゃなく“WE”にできるほうが楽しいし、もっと素敵なモノがつくれると思っています。そうじゃないとチームでやる意味もないですよね」

2011年にPARTYを立ち上げた川村は、そのグローバルビジネスをすべて手がけ、ニューヨークや台湾にもオフィスを展開させた末、2018年にPARTYを離れ、dot by dotと合併して新たにWHATEVERをスタートさせる。自身もクリエイターながら経営に携わることには数多くの困難があったが、それでも「みんなで話し合える環境があるのはクリエイターにとって幸せなこと」と川村は語る。

他方の篠田はさまざまな業界の企業をバックオフィスからサポートしてきたが、組織における自分の役割は変わらないと述べる。クリエイティブ、経営コンサルティング、製薬、食品……どれも同じです。面白いからやりたい、世の中に広めたいと思っている人が中核にいて、その実現をサポートすることが自分の役割だと思っています」

川村真司|MASASHI KAWAMURA

博報堂、180、BBH、Wieden & Kennedyといった世界中のクリエイティブエージェンシーでの活動を経て2011年PARTYを設立し、PARTY New York及びPARTY Taipeiを立ち上げその代表を務める。2018年 dot by dotと合併し、新たにWHATEVERをスタート。その仕事はカンヌをはじめ世界で100以上の賞を受賞し、Creativity「世界のクリエイター50人」、Fast Company「ビジネス界で最もクリエイティブな100人」、AERA「日本を突破する100人」にも選出されている。
PHOTOGRAPH BY YURI MANABE

アライアンス」の可能性

本セッションのモデレーターを務めるtrialog共同代表の水口哲也もまた、クリエイティブと組織の関係に悩み、自らEnhanceとレゾネアというふたつの企業を立ち上げている。水口はクリエイティブにとって会社という組織は限界があるのではないかと語った。

会社員とクリエイティブの相性が悪いなと思ったんです。クリエイターには成長してほしいから会社で縛りたくないし、会社員制度で縛るとクリエイターが不健康になってしまう。もちろんいいときはいいけど、システムがうまくいかなくなると優秀なクリエイターから会社を辞めてしまうこともままありますよね」

水口はそう考えたからこそ、自身の企業Enhanceは正社員をとらないようにしているのだという。そして、そのシステムに大きな影響を与えたのが、ほかならぬ篠田がかつて監訳を担当した書籍『アライアンス──人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』だった。LinkedInの創業者、リード・ホフマンによるこの書籍は、会社と従業員という上下関係ではなく全員がフラットな「アライアンス=同盟」という関係性の可能性を説いている。同書を読んだ水口は、自身の考えがまさにこのアライアンスなのだと気付かされたという。

水口の話を受け、奇しくも川村も近年「アライアンス」という言葉に惹かれていたことを明かした。毎年経営にテーマを設けようと思っていて、2018年のテーマはクリエイティブアライアンスだったんですよ。クリエイターにとっての幸せのバランスを考えると、アライアンスってモデルは非常にいいですよね」

同書を監訳した篠田も、アライアンスなるモデルが暴いた従来の雇用システムの矛盾を指摘する。これまでの企業は暗黙の了解としてずっと同じ企業で働くことを強いてきたが、いまやその前提は現実的ではない。だからこそ、アライアンスというフラットな形で、自分が会社とかかわる上でできることやその期間を区切っておくべきなのだという。アライアンスはフラットなことに加えて、時間軸のとり方に新しい提案がありましたね」

篠田真貴子|MAKIKO SHINODA

慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年10月に(株)ほぼ日(旧・東京糸井重里事務所、2017年3月JASDAQ上場)に入社。2008年12月より2018年1 月まで同社取締役CFO。現在は、充電中。
PHOTOGRAPH BY YURI MANABE

チームをつくる」というクリエイティブ

こうして新たな組織をつくった水口や川村は、同時に組織やチームのあり方が国ごとに変わることに直面している。特に近年意識的にお金や契約、法律について学んでいるという水口は、Enhanceを米国で立ち上げたこともあり欧米的な「契約社会」と日本社会のギャップにとまどうこともあるという。

ニューヨークや台湾で会社を立ち上げたことのある川村も、水口の発現を聞いてうなずく。海外は全部スコープを定めて、そこから少しでもはみ出ると“extra charge”が発生するケースが多い。アウトプットをより良くしていくための柔軟性がなく、悲しくなったりもするんだけど、それはそれでクリエイターが身を守る手段なんですよね」

ふたりの話に対して、篠田は自身が携わるコーポレート部門がまさにそうした役割をもっているのだと語った。コーポレート部門がやることは3つあります。まずは仕事を実現するためにお金や人を外からつれてくることで、アライアンスはそのやり方のひとつ。ふたつめが、目的を果たすための安心・安全な環境をつくること。契約の話はここですよね。そして3つめに法人を運営するための役割が出てくる」

かつての日本は社会のつながりが密だったから契約書がいらなかったのかもしれません」と篠田はつづける。アメリカは真逆ですよね。移民国家ですから。国土も広く360度まわりを見回して誰もいないところを開拓していくから、そこで安心・安全に働くためには契約が必要になっていく。方法は違いますけど、目的は一緒なんです」

篠田の話を聞いた川村は、契約やリーガル部門ってクリエイティブですよね。そこにもアイデアが必要で、むしろいいアウトプットの初動はそこにある気がする」と語る。篠田も川村の発言にうなずきながら、仕事の本質は人の心にあるので、そういう意味では管理部門の仕事にもクリエイティブはありえるのだと思います」と語った。

クリエイティブとは、コンテンツをつくることのみにあるわけではない。経理やコーポレート、営業などいわゆる「クリエイティブ」の裏側で起きていることも本来クリエイティブなはずなのだ。

水口は「契約書ひとつとっても、言葉づかいを変えるだけで人々の気持ちが全然変わってくる。組織をつくることはクリエイティブなんだなと思うんです」と語った。優れたクリエイターを集めれば優れたチームができるわけでもなく、優れたクリエイターを集めれば優れたクリエイションができるわけでもない。新たなクリエイティブを生みだすうえでは、どんなチームをつくるのか考えることからそのクリエイティブが問われているのだ。

ABOUTtrialogについて

WHAT’S “trialog”?

trialogとは、実験的な対話のプラットフォームです。

世の中を分断する「二項対立」から、未来をつくる「三者対話」へ。
trialogは異なる立場の三者が意見を交わす空間をつくり、
「ほんとうに欲しい未来はなにか?」を考えます。

代表を務めるのはblkswn コンテンツ・ディレクターの若林恵。
さらに、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也が
共同企画者として参加します。ソニーのサポートのもと、
ジャンルや国境を超えた多彩なゲストを迎え入れたイベントを開催し、
対話のためのコミュニティ形成を目指してゆきます。