trialog Partnered with Sony
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VOL.6 SELF STUDY

独学〜自分を成長させられるのは自分だけ

ハリウッドへの道は模倣から始まった

2019年7月22日(月)に開催されたtrialog vol.6は、2018年6月のvol.1「融解するゲーム・物語るモーション」から約1年を経ての大幅アップデート 。渋谷ブリッジ内のカフェスペース「No rails / No rules」に会場を移し、より密接な距離感で「三者対話」のトークセッションに参加できるようになった。さらに今回から、“いま観ておくべき”気鋭の音楽家によるミュージックセッションが新設。同会場の優れた音響設備を駆使した、臨場感のあるライヴ・パフォーマンスが披露される。

PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA
TEXT BY TOSHIYA OGUMA

今回のテーマは「独学」。終身雇用がデフォルトでなくなった現在、わたしたちは何を指針とし、どのように自分を磨き上げればよいのだろうか。そのヒントを探るべく、SNSをきっかけにハリウッドへの扉を開き、現在はルーカスフィルムのVFX部門に所属するコンセプト・アーティストの田島光二を招聘し、trialog共同企画者の若林恵、水口哲也と議論を交わすことに。さらに16歳のトラックメイカー、SASUKEのパフォーマンスを通じて、ポスト・ミレニアル世代の表現プロセスに迫った。

TALK SESSION

アイデアを出すのも「技能」

まずは本編の前に、共同企画者の若林、水口、ソニー株式会社の小堀弘貴による挨拶からスタート。そもそも、trialogはどんな取り組みなのか。小堀は「(若い世代が)新しいものを作り出すクリエイティビティに満ちた生き方をするため、そのヒントをいろんなクリエイターに訊いていく試み」と改めて定義する。

直近の2回では、「お金とクリエイティブ」「これからのチームづくり」をそれぞれテーマとし、フリーランサーが増えていく今日において、どうやって「社会」や「経済」、「仕事」や「組織」と向き合っていくべきか考えてきた。今回、vol.6で掲げられた「独学」も、同様の問題意識に基づくテーマと言えそうだ。その背景を、若林はこんなふうに説明する。

「ある時期までは会社にボーッといるだけでも、先輩にいろいろ教えてもらったり、誰もが成長していけるような仕組みがあったはずなんですよ。でも、そういった機能は失われつつある。実際、みなさんがこういうイベントに参加したりするのも、成長するための契機を(職場や学校とは)別のところで探しているわけですよね」

従来型の企業組織が崩壊しつつある今日、自分を成長させられるのは自分しかいない。そんな時代を生き抜くうえで、独立独歩の道を歩むクリエイターたちの人生は、ひとつの指標になりうるかもしれない。「自分がやってることはこれで合ってるんだっけ? 自分の実力はどれくらいなんだっけ? クリエイターはそんなふうに手探りのまま、常に自分のことを査定し続けなければいけない。だから今回も、優秀な人間がどう生きてるのかって話じゃなくて、みなさんの生き方に関わるヒントを引き出せたら」と若林がつづける。

そのあと、ゲストの田島光二が登壇。『ヴェノム』『ブレードランナー2049』『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』など、錚々たるハリウッド大作に携わってきた田島は1990年生まれ。2011年に専門学校を卒業後、フリーランスのCGモデラーとして旗揚げ。その後、2012年からヨーロッパ最大のVFX製作会社であるダブル・ネガティブ(現・DNEG)に所属したあと、昨年秋にインダストリアル・ライト&マジック(ルーカスフィルムのVFX部門)へと移籍し、現在はバンクーバーを拠点としている。20代後半の若さで世界的コンセプト・アーティストとなったわけだが、本人の語り口は至って謙虚だ。

「コンセプト・アート」とは、最終的な作品を仕上げる前段階として、世界観やイメージを伝えるイラストのこと。そこでは新しいものを生み出すための発想力や、そのアイデアを正しく表現するためのデザイン力が求められる。田島はどうやってスキルを身につけ、アイデアの種をインプットしているのか。「オフの時間に秘密が隠れているのでは?」と水口が指摘すると、「水彩画が好きで。おじいちゃんのシワとか延々と描いてられますね」と彼は答える。仕事ではグロテスクな造形も手がけるが、プライベートでは綺麗なものをそのまま描写することが多いという。「でも、少しアレンジするだけで気持ち悪くすることもできるから」と田島はつづける。

「自分にとってはアホみたいなアイデアによって、みんながインスパイアされることもある。バカになるのを恐れないのが大事」と語る田島。「0」から「1」を生み出す日々を送る彼にとって、ひらめきとはトレーニングで鍛えられるものだという。「アイデアを出すのも、ある種の技能だと思いますか?」という若林の問いにも、「そうですね」と即答してみせる。

田島光二 | KOUJI TAJIMA

コンセプト・アーティスト。2012年、VFX制作会社DNEGを経て、Industrial Light & Magic(ルーカスフィルムのVFX部門)に所属。これまで『ヴェノム』『ブレードランナー2049』『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』など多くの映画作品のコンセプトアートを手がける。学生時代に「3DCG AWARDS 2010」で最優秀賞、2017年にWIRED Audi INNOVATION AWARDを受賞。2018年、Forbesの30 under 30 Asiaに選出される。著書に『田島光二アートワークス』など。

サクセスストーリーに導いた「独学」

「デザインは何かと何かの組み合わせ。その組み合わせ方も(直感ではなく)ロジックで考えられるし、引き出しを増やす作業も練習できる。あと、常にアンテナを張るようにしていて。一つの方向性に凝り固まらないように、使ったことのない技術や、不慣れなソフトウェアをあえて取り入れたりもする。ずっと勉強していると法則がわかってしまうけど、いかに法則から外れていくかがデザインの醍醐味」と、あらゆるクリエイティブに応用できそうな方法論を明かしてくれた。ちなみに現在は、blenderというフリーソフトにハマっているそうだ。

最近では、田島の元に「ぜひ見てほしい」と作品が送られてくることもあるそう。「僕も下積みの頃はいろんな人に見てもらっていました。日本の映画業界で、コンセプト・アーティストという仕事をしている人はまだ少ない。だから、僕で答えられることがあったらなんでも答えたいですね。ただ、全力じゃない作品は送らないでほしい」と力強く語る表情は、数々の修羅場をくぐってきたからこその自信と、パイオニアとしての使命感に満ちていた。そんな彼をサクセスストーリーに導いたのは、他ならぬ「独学」だったようだ。

参加者はU30限定ということで、学生から社会人まで多くの若者たちが詰め掛けた。トークを聞く姿勢は真剣そのもの、質疑応答でもたくさんの手が挙がる。オーディエンスの意欲的な姿勢もtrialogの特徴だ。
PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

さらなる新機軸として、クリエイティブ集団・InnovationTeam dotによる「グラレコ」も今回よりスタート。議事録をグラフィック化し、トークセッションの内容を一目で振り返ることができるように。
PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

Sony Future Showcaseで紹介されたtoio。工作やプログラミングを通じて自分で組み立て,操作することができる次世代ロボットトイに、来場者も興味津々のようだった。
PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

恒例となったセッション終了後の懇親会では、田島光二にもっと話を聞こうと来場者が殺到。時間いっぱいまで親睦を深め、一人一人にアドバイスを送る田島の姿に、若林と水口も感銘を受けていた様子。
PHOTOGRAPH BY KAORI NISHIDA

「絵に関しては、模写がいちばんの練習になると思います。僕も学生時代からずっと続けている。ただ単に真似るのではなく、何を考えてその色を置いたのかとか、作者の思考までイメージしながら模写すると違ったものが得られると思います」

さらに、「メモ帳が好きでたくさん集めているけど、字は書かず、絵ばかり描いている。思いついたものをダーっと描くのが好き」と楽しそうに語る田島に対し、「伝統工芸の職人さんと会話しているような感じがした」と水口が打ち明ける一幕も。「練習はずっとしている。きっと死ぬまでしていると思う」という田島。トップランナーによる金言の数々と、その裏に隠れた地道な努力に、来場者も大いに感銘を受けた様子。Q&Aコーナーでも田島の哲学を少しでも掘り下げようと、たくさんの質問が飛び交った。

MUSIC SESSION

独りで学んだトラックメイク

ソニー主導の「Future Showcase」では、中高生と一緒にPlayStation VRのコンテンツを創る「VR Camp」や、子供たちを対象としたプログラミング・ワークショップなど、将来を担うクリエイターの育成を目的とした取り組みを紹介。さらに会場では、プログラミングの基本が遊びながら身につけられる、新感覚のロボットトイ「toio(トイオ)」の展示も行われた。

そして、いよいよミュージックセッションへ。爽やかな出で立ちのSASUKEが登場すると、客席から大きな拍手が巻き起こった。5歳の頃からパソコンを触りだし、GarageBandを習得したという彼のトラックメイクは完全なる「独学」。その早熟ぶりは演奏前のトークから全開で、落ち着いた語り口に若林もびっくりした様子。

まずは、ゆったりした雰囲気のビート・ミュージックからスタート。MPCをその場で叩き、曲調をなめらかに変化させながら、チルでアーバンなムードを醸成させていく。「長丁場で疲れてませんか?」とフロアを気遣うMCは、とても10代には感じられない。

続けて披露されたのは未公開の新曲。中学時代の合唱コンクールで耳にしたという曲のフレーズをサンプリングしたあと、ピアノ、ベル、ベース、ギター、ブラス、ドラムと音色を一つずつ足していくことで、「独学」で培った作曲能力をさりげなくアピールしてみせる。そして最後は、ソウルフルな歌心を聴かせる「夜の考え」のあと、“令和、令和”と何度も歌うキャッチーな「新元号覚え歌」で軽やかにステージを締めくくった。

SASUKE

2003年愛媛県生まれ。5歳の時から作曲を始める。また同時期にダンスも習い始め、10歳の時にNYC APOLLO THEATER「Amateur Night」Show Offに出演し、優勝。その後も新しい地図 join ミュージックに楽曲「#SINGING」を提供するなど、注目を集める。2019年配信リリースされた「平成終わるってよ」のMVが公開3週間で50万回再生を達成し、同年SpotifyのEarly Noise Artist 2019に選出された。トラックメイカー、作曲家、ドラマー、ダンサーなどマルチな才能を兼ね備えた、新進気鋭の16歳。

ABOUTtrialogについて

WHAT’S “trialog”?

trialogとは、実験的な対話のプラットフォームです。

世の中を分断する「二項対立」から、未来をつくる「三者対話」へ。
trialogは異なる立場の三者が意見を交わす空間をつくり、
「本当に欲しい未来とは何か」を考えます。

代表を務めるのはblkswn コンテンツ・ディレクターの若林恵。
さらに、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也が
共同企画者として参加します。ソニーのサポートのもと、
ジャンルや国境を超えた多彩なゲストを迎え入れたイベントを開催し、
対話のためのコミュニティ形成を目指してゆきます。