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VOL.9 QUALITY / MISSION

「いい仕事」とは?

「いい仕事」とは人の記憶に残ること

SESSION 1:小島秀夫×水口哲也×若林恵

2020年2月19日(水)、trialog vol.9が開催された。当日は「いい仕事」について考えるべく「クオリティ」「ミッション」をそれぞれテーマとした二本のトークセッションを実施。豪華ゲストの登壇もあって、会場のTRUNK BY SHOTO GALLERYにはこれまで以上に多くの観客が訪れた。

今回はSESSION 1「クオリティはどこまで追求するのか」のレポートをお届けする。ゲストは『メタルギア』シリーズで世界的な人気を獲得し、企画・脚本・監督・ゲームデザインを行なったノーマン・リーダス主演の最新作『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』(PlayStation®4用ゲームソフト)も大きな注目を集めているゲームクリエイターの小島秀夫。同じく世界を舞台に進化し続けるゲームクリエイターの水口哲也、trialog共同企画者・若林恵との三者対話を通じて、同氏が考えるものづくりの哲学に迫った。

PHOTOGRAPHS BY YURI MANABE
TEXT BY TOSHIYA OGUMA

ものづくりをすることが使命

クリエイターであれば誰だって、最高の作品をつくることが究極の目標であるのは間違いない。しかし、実際にはどんなプロジェクトであろうと、それが仕事である以上はさまざまな制約から逃れることはできない。ここでいう「いい仕事」とは何を指すのか。“最高”の基準となるクオリティはどこで測るべきなのか。本セッションで小島秀夫を迎えた理由について、「トップクリエイターは何を目指し、どんなものを指針としながら日々の制作を行っているのか。それがどのようにクオリティと直結しているのかを訊きたかった」(若林)、「クリエイティヴの質、人の質、仕事の質、いろんなクオリティがあるじゃないですか。そういう意味でもすごく深い議論になりそうな気がします」(水口)と説明されたあと小島がステージに登壇すると、会場からの大きな拍手が沸き起こった。

2019年11月に発表された最新作『DEATH STRANDING』はすでに国内外のゲームアワードでタイトルを多数受賞。「ゲームの歴史と常識を塗り替えた作品」と広く絶賛されている。小島は、1986年にコナミ・神戸オフィスに入社。翌年にMSXのパソコンゲームとして最初の『メタルギア』を発表。同作がシリーズ化してステルスゲームと呼ばれるジャンルを開拓し、世界中のファンを熱狂させてきたのは周知の通りだ。同じゲームクリエイターである水口との付き合いは長く、小島は「1996年に東京へ移ったとき、僕は飯野賢治さんと仲良くしていて、水口さんも事務所が近くだったので三人でよく遊んでました」と、知り合った当時を振り返る。クリエイターとしての資質は異なるものの、アートの趣味は似ている部分も多いそうで、互いにニュー・オーダー好きという音楽ファンとしての一面も覗かせた。

同世代として(小島は63年、水口は65年生まれ)ゲーム業界に革命を巻き起こしてきた二人は、ハードの制約や所属会社の無理解など、ものづくりにおけるフラストレーションも分かち合ってきた。しかし時代は変わり、ゲームはテクノロジーの進化によって、当時とは比べ物にならないほど表現力を向上させている。昔を知る立場として、「『DEATH STRANDING』は自分のことのように感慨深い」と水口が語ると、「進化すればするほど溜まるものも増えるんですよ(笑)」と小島。彼がそう答えたのはこんな背景がある。

小島は2015年に自身の会社であるコジマプロダクションを設立した。大物クリエイターが独立となれば期待も高まるが、表現の幅が広がった今日のゲーム開発では、大規模な予算及びスタッフ運営が必要不可欠となっており、個人の会社でかつてのようなゲームをつくるのは不可能だと言われていた。そんな常識を打ち破ったのが、同社初の作品となった『DEATH STRANDING』だが、完成までには多くの困難があったにちがいない。「会社を大きくしながらゲームを開発していくうえで、制作のプロセスに変化はありましたか?」と若林が質問すると、小島はこのように答えた。

「つくってるものはゲーム、そこは今まで三十数年やってきたことと一緒なんですよ。もちろん、ハードは進化しているし、プラットフォームも変わってますけど、つくってるものは同じなので、そこで苦労とかはあまり感じませんでした。ゼロから事務所を探して、インテリアや壁紙をどうするか考えて(笑)、人を募集して面接しつつ、銀行とかも行きながらものづくりをするので、そこは新しいところではありましたけど。ものづくりをすることが僕の使命だと思ってるし、普段からそれしか考えてない。結果的に商品があって収益があるわけで、その前後が逆になったことはない。『これだけ儲けましょう』みたいなのが最初にあって、そこにものづくりを引っ付けるっていうのは非常に辛くて難しいことだと思うけど、それを今回もやらなくて済んだので。結果的に、つくりたいものを企画して、一緒にやりたい人と集まってものづくりすることができました」

作品を完成させるのは予算とスケジュール

『DEATH STRANDING』はハリウッドの俳優陣を起用するなど、『メタルギア』シリーズに匹敵するほどの大作に仕上がっている。そのように“ものづくりファースト”で理想を追い求めつつ、「何本売ればペイできるかっていうのは、頭のなかに当然あります」とも語っているように、自分ですべてコントロールできる環境になった今でも、小島は予算やスケジュールといった制約とシビアに向かい合っている。

「僕はそもそも完璧主義者なんです。例えば一人で絵を描いたりすると、その日はよくても、一晩寝て次の日の朝見るとイヤになるじゃないですか。世の中も変化してるし、自分も毎日変化してるので。昨日の時点で最高だと思ったものも一晩寝るとイヤなんですよね。だからそれを直すと。で、次の日にまた見ると、また直すじゃないですか。終わらないんですよ(笑)。じゃあなんで仕上がるかというと、バジェットとスケジュールがあるから。妥協といったらよくないけど、スケジュールがあるからこそ、そこまでにできることを全力をかけてやると。なので、そこでクオリティのラインを自分で引くしかないですよね。すべてを上に持っていくのは無理なので、〆切を見越しつつ、そこまでに何ができるか優先順位を付けてやるしかない。というのも、映画は撮影して編集したら終わりだけど、ゲームはデジタルなので全シーンいくらでも変えられるんですよ。ずーっといじってられる。その作業が楽しくて、完成したら次の日からどうなんねん!って不安になりますもん」

小島秀夫

ゲームクリエイター、コジマプロダクション代表。87年、初めて手がけた『メタルギア』でステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開き、『メタルギア』シリーズで世界的な人気を獲得。2015年末コジマプロダクションを立ち上げ、企画・脚本・監督・ゲームデザインを行なったノーマン・リーダス主演の新作『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』(PlayStation®4用ゲームソフト)を2019年に発売。

この心境を、水口は「完成させたくない病気」と表現していたが、子どもがおもちゃで遊ぶように、時間さえあれば永遠につくってられるのがクリエイターの性というものだ。しかし、それでは永遠に完成しないので、何かしらの制約や枠組みが必要になってくる。ゲームの開発においては、最初にヴィジョンをもつことが重要なのだと小島は語る。

「ゲームで言うと、ヴィジュアル、サウンド、ストーリー、ゲーム性、ヴォリュームとかあるなかで、ラインをどこに引くかですよね。全体のバランスも考えながら、どういうものをつくるのか最初の計画で決めるしかない。あとはスケジュールとバジェットを意識しながら、日々調整していく。ゲーム開発はテクノロジー依存なので、ものすごい数の問題が毎分毎秒起こるんです。それを自分たちでその都度解決して微調整して、この先に待つ完成のラインを考えながらバランスを取っていくことで完成する。プラモデルは完成品をバラバラにしたパーツを組み立てるものだけど、僕らの場合は完成品が見えないのに、自分たちでパーツをつくりながら間違いなく組み立てなあかんのですよ。だから、最初のところで間違えると、イチからつくり直し」

小島のなかに広がるヴィジョンや世界観、目安となるクオリティのラインを開発スタッフと共有するため、彼はPVを外注するのでなく、自分の手でつくるようにしているという。その時点で微細につくり込みながら、あとでさらにディテールを突き詰めていく。「最初は別のイメージだったけど、つくりながら『やっぱりこっちに変えよう』っていうふうに毎日どんどん変えていきます。そうじゃないとつくってても面白くない。ただ、背骨の部分を変えると崩壊してしまうので、そこは最初にしっかり用意しておきます」と彼は説明する。理想を叶えるための現実的なノウハウの数々は、クリエイターのみならず学生やビジネスパーソンにとっても学びが多いはず。三人のトークは、ここからさらに白熱していった。

こんなゲームがあってもいい

『DEATH STRANDING』は“つながり”をテーマにしている。オンラインゲームでありながら、他のプレイヤーと同じ空間で共同作業することはない。その代わり、橋や発電機を設置するなど、自分の空間で起こしたアクションが他のプレイヤーたちの空間へと反映される。そうやって世界中のプレイヤーが間接的につながることで、ゲーム内の分断された世界もつながっていく。まさしくゲームの常識を覆すようなシステムだが、そういった斬新なアイデアはどんな瞬間に思いつくのか。若林の質問に、小島はこのように答えた。

「普通は企画者がいて、それを元に脚本家がストーリーを書いたり、カットシーン専門の人がいたりするわけですけど、僕は企画もストーリーもゲーム性も全部ひとりで考えているので、つくり方もちょっと違うんですよ。なんとなく“つながり”をコンセプトにしたゲームを考えながら、今日はお話を書こう、今日は設定しようとかやっていて。そんなふうに右と左で別々のことを動かしつつ、並行して進めていくことで、おぼろげなアイディアにどんどんディテールが追加されていく。それを方向修正したりするうちに、あるときパズルみたいにパパパッと繋がっていく瞬間があるんですよ。これがものすごく気持ちいい!」

小島は他のインタビューで、“つながり”というテーマの背景にSNS以降の社会に対する問題意識があることや、テクノロジーは進化しながら、ゲーム自体のあり方が変わっていないことへの停滞感について語っていた。上述したような斬新なアイディアは、既存のゲームに対するオルタナティヴを示すものだとも言えるだろう。「小島さんや僕もそうだし、集団制作にはいろんなやり方があると思う。そういったプロセスが作品そのものにも直結しているんだけど、そのやり方は誰かに教えられたものではない」と水口が語ったあと、小島はこのように続けた。

「僕らが若い頃は何をやってもよかった。『会社は教えるところではない!』って先輩に言われたけど、よくよく聞いてみたら知らなかったりして(笑)。もっと昔はゲームなんてなかったから、そもそもの前例がなかったんですよ。だから当時は、無茶苦茶なゲームもたくさんあった。でも今は、ゲームのフォーマットが定まってるじゃないですか。ゲームオーバーがあって、復帰ポイントはこうあるべきだって全部決まってる。ジャンルもそうですよね、RPGとかFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)みたいな。だから、この30年間で生まれたゲームは、僕ら年寄りが作ったルールの上をなぞってるようなものが多い。その殻を破ることがいいのか悪いのかっていうのはありますけど……既存のフォーマット上で売れるものをつくるのも、クリエイターにとってチャレンジだとは思うんですよ。会社から呼ばれて、何百万本売れるもの、ジャンルはこれで、銃で撃ち合いするやつって言われて、それでものづくりをするのもアリなんだけど、そうじゃないアプローチもあると思う。でも、そこが今は塞がれてますよね」

さらに『DEATH STRANDING』について、「僕はゲームを紡いできた人間なので、年寄りとして『こんなゲームがあってもいいよ』っていうのを見せたかった。そのためにも、ビジネスとして成立させないといけない」と小島が続けると、水口と若林も「すごい……!」と思わずうなる。実際、小島も言及していたようにゲーム業界のみならず、ハリウッド映画の大物監督がNetflixなど新しいプラットフォームに進出し、これまではできなかった映像表現に挑んでいる例もある。クリエイティヴにとって、停滞感は新たな可能性を生み出すチャンスとも言えるだろう。

ものづくりの根源はよい影響を与えること

一方で、挑戦には批判もつきものだ。「『DEATH STRANDING』はレビューでも賛否両論となっている。おそらくつくってらっしゃる側からすると、これも想定内なのかなと思うんですけど」という若林の指摘に、「そうですね。映画でも何でもそうだけど、新しいものって賛否が絶対に分かれるじゃないですか。『メタルギア』もそうだったと思うけど、あのときはSNSがなかったから見えなかっただけなので」と小島は答えている。

逆に、小島から見て想定外のリアクションはあったのか。『DEATH STRANDING』は、プレイヤーが操作する伝説の運び屋が、分断された世界を再び一つにつなぐ任務に赴く姿を描いた作品だが、「僕としてはお話があって、配達しながらつなげていき、なるべく最短で(エンディングまでの)ストーリーを楽しんでほしいと思ってたんですけど、ずっと道路をつくってたり、ずっと配達してたりする人がものすごく多いんですよ。150時間やってる人とかもいて。そんなにやらんでもええやろ!って思うけど(笑)、そこは嬉しい誤算でしたね」と彼は語る。

「普通のゲームは、AからBに少しでも早く行ったほうが得点が高い。でも『DEATH STRANDING』は効率を競うのではなく、AからBに行くときの風景を楽しむゲームなんです。それと、自分のために橋を架けて、自分のためにロープを垂らすんですけど、あるときにそのロープが他人の役に立ってるのがわかるようになっている。そういう体験をしたら、次に行動するときにもっと他人のことを考えるじゃないですか。このあたりはリスクも大きいし、スタッフともだいぶ議論したんですけど、ここをいじったら普通のゲームになってしまう。最終的には納得してもらえました」

若林が指摘したように、従来のゲームは自分の利得・利益を増やすことをゴールとした、いわば資本主義的な考え方で作動しているものが大半だった。しかし『DEATH STRANDING』には、シェアリングエコノミーにも通じる現代的な発想が盛り込まれている。さらに水口が、「小島さんは今回、“コネクト”っていう今日における重要なキーワードから、グローバルなストーリーテリングをつくり上げたんですよね。それを世界中で何百万人も体験していくなかで、もし彼らにマイナスの影響を与えたらどうしようって意識がどこかにあったはず。つくり手として一番嬉しいのは、ゲームを体験することで、その人の人生や振る舞いだったりが変わったりすることだろうから」と話すと、小島も「ゲームつくりの根源はそこにあります」と頷いてこう語った。

「面白いっていうのは当然で、ストレスを発散したり、時間を忘れるほど没入したりも重要ですけど、そのゲームのなかだけで完結してほしくない。ゲームで体験して感じたことを自分の世界に持ってきて、何か新しい視点を得てほしい。これは今までつくってきたゲームについても一緒。なぜかというと、僕もそういう体験を映画や小説でもらってきたから。実際にはできないことがフィクションではできる。自分とは違う性になったり、違う年齢や職業、あるいは宇宙人になったり、過去の人になったりもできる。ヴァーチャルな体験であったとしても、自分の人格には影響してくると思うので」

若林が読んだ海外メディアの記事によると、小島は2002年頃の段階で、ソーシャルメディア以降における社会の分断を予見するようなコメントを残していたという。鋭敏な感性には驚くばかりだが、「ネットはたしかに便利ですけど、ネットだけに従って生きていくと損すると思う」と語る彼は、どんなふうに社会へのアンテナを張っているのか。

「とりあえず本屋に行くこと。ネットでも情報は入るけど、本屋に行くと何が流行ってるのか全部わかる。それに何万冊もの本があるけど、そのなかでほんまに面白いのは100冊、50冊なんですよ。それを自分の人生で引けるかどうかが大切で。ネットのベスト10とかで選ぶのもいいんですけど、そうじゃなく自分の勘を働かせて、その本と出会う運命みたいなものの下地をどれだけつくっておけるか。その訓練をするためにも本屋に行ってます。CD屋でもよく試聴しながら(店内を)まわってますが、そこの出会いを大切にしたい。映画との出会いもそうだし、人との出会いだってそう。いい人に出会えるかどうかって、運じゃなくて人付き合いのセンスじゃないですか」

食べたことがないものも食べてみてほしい

ここでセッションは持ち時間いっぱいとなり、質問タイムへ。「今まで選択を迫られてきたとき、何を軸に決断してきたのか?」という問いに対し、小島は「自分を信じること。特に新しいことをするときは、猛烈な反対に遭う。僕ら年寄りがつくった前例とかが若者たちの壁となるので、そこは申し訳ないけど自分の判断で乗り越えるべきです」と答えた。

しかし若林が言うように、例えば出版の世界なら編集者がいて、書き手が信頼できる形で意見を聞いたりすることもできるが、小島の場合はひとりで何役もこなしながら桁違いのバジェットを扱っている。不安を感じたりすることはないのだろうか?

「それはありますよ。(自分のなかで)確固たるものがないとものづくりはできない。でも、誰かがネガティヴなことを言ってくると自信なくすじゃないですか。そういう意味でクリエイターは孤独です。集団でやってても、企画者だったら責任を追うのは自分なので。ただ、周りの意見を聞いてもいいけど、最終的に決めるのは自分ですね。自分が満足いくものをつくるには、自分がプロデュースしてお金の勘定もするしかない。僕は昔、ディレクターだった時期がありまして。自分で企画するんですけど、バジェットがわからないので人を雇えなくて。スケジュールも漠然と決められるから、発売日が決められへんのですよ。発売日を自分で決めて、これだけ儲けたらこれだけ使えるというのがわかってたらそれ相応の対応ができるのに、その権限がなかったので後手後手に回ってたんですけど、あるとき自分で全部やったらうまいこといったんです」

その一方で、決断すること自体については慎重なのだという。「人任せにして失敗すると、だいたい組織のせいにしがち。会社が悪いとか国が悪いとか。最終的に誰かに任せるとしても、無知でいるっていうのが一番よくない」と水口が語ったのに対し、小島はこのように続けた。

「僕らはジジイだから経験を積んでるので狡猾なんですよ。なんとなく、このまま行ったら成功するとか、このままだとマズいとかがわかるんです。石橋をかなり叩いてますよ、そういうふうには見えないでしょうけど(笑)。それが成功の近道じゃないですかね。あと、僕はいろんな可能性を考えるんです。こっち行くべきかな、ここで止まる人もいるなって。そういうのもゲームのデザインと似てるんですよ。結果的に正解だと自信にもなりますし」

このように日頃から思考回路を働かせているのも、小島が世界的クリエイターとなった一因なのかもしれない。次の質問は、「いい仕事をするためにどんな自分でありたいですか?」。これに小島は「人の記憶に残ることですかね」と即答。その理由とは?

「生物は生まれて子を残してそれで終わりなので、(次代に)つないでいったら評価されるけど、それだけじゃイヤじゃないですか。自分がこの時代に生きてきたからこそ、この建物や道があるとか、こんな文化が生まれたとか、病気が治ったとか。そういうことが少しでもあれば、死ぬときに『ちょっとは人の役に立ったんちゃうかな?』と思えるんじゃないかな。作品というか、生きた証みたいな。そういうのがやっぱりないと」

その答えを受けて、「『DEATH STRANDING』では橋をつくったり何かを置いていったりすることはできるけど、その人たちと出会うことはない。そういう人の痕跡みたいなものを発見していくプロセスや、さっきのいい本を探すための話もそうだし、聞けば聞くほど小島さんの人生観がゲームのなかに入ってるんだなと思いました」と若林が指摘すると、「孤独とか友だちがいないとか言いながら、みんな社会のなかで生きてる。会場にもこんなにたくさん集まってくださってますし、やっぱり一人じゃないですよね。だから、みなさんの生きた証はどこかに残ってるんですよ。それをあとから来た人に辿ってもらえるような何かがあったらいいかなと」と小島は答えた。

では、いい仕事とはなんなのか? 「自分が楽しいとか気持ちいいとかを別にすれば、いい仕事かどうか評価されるのはもう少し後なので。今評価されてなくても、そんなに焦る必要はないと思いますけどね。画家の人は死んでから何百年も経ってから評価されてますし」と小島は語る。続けて水口が「賛否両論みたいな作品は遅れて評価されるんですよ。『2001年宇宙の旅』だって『ブレードランナー』だって公開直後の評価はボロボロだったけど、数年経ってグッと変わった。『DEATH STRANDING』も10年後の評価はまったく違うはず。いい体験は長く刻まれるので3年や5年経ったとき、当時の記憶を語る人が出てくると思う」と述べると、「賛否のあるやつって異物なんですよ。見たことのないものを食べるから、消化されずに残るんですよね。残ってる間になんとなく何回も反芻して、5年10年でようやくわかる。だから、食べやすいものもいいけど、食べたことがないものも食べてみてほしい」と小島も続けた。

セッションの途中、小島は「今あるものをつくるんだったら、別に僕の出番じゃない」と語っていた。“食べたことがないもの”をつくるのは失敗のリスクもある。しかし、時代を動かしてきたのはいつだって大胆なクリエイティヴだ。挑戦し続ける小島の背中を追いかけるように新しい才能が登場すれば、それもまた生きた証になるのだろう。

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trialogとは、実験的な対話のプラットフォームです。

世の中を分断する「二項対立」から、未来をつくる「三者対話」へ。
trialogは異なる立場の三者が意見を交わす空間をつくり、
「ほんとうに欲しい未来はなにか?」を考えます。

代表を務めるのはblkswn コンテンツ・ディレクターの若林恵。
さらに、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也が
共同企画者として参加します。ソニーのサポートのもと、
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対話のためのコミュニティ形成を目指してゆきます。