trialog Partnered with Sony
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VOL.9 QUALITY / MISSION

「いい仕事」とは?

「私にできること」からスタートしよう

SESSION2:三原良太×マクティア マリコ×若林恵

2020年2月19日(水)、trialog vol.9が開催された。当日は「いい仕事」について考えるべく「クオリティ」「ミッション」をそれぞれテーマとした二本のトークセッションを実施。豪華ゲストの登壇もあって、会場のTRUNK BY SHOTO GALLERYにはこれまで以上に多くの観客が訪れた。

世界的ゲームクリエイターの小島秀夫が登壇したSESSION 1に引き続き、今回はSESSION 2「この仕事はいったい何のため?誰のため?」のレポートをお届けする。ゲストは新感覚のイヤホン「ambie sound earcuffs」を生み出したエンジニアの三原良太と、深刻な社会問題に取り組むビジネスを増やすため、Social Innovation Japanを立ち上げたマクティア マリコ。trialog共同企画者・若林恵との三者対話を通じて、さまざまな観点から仕事における「ミッション」について話し合った。

PHOTOGRAPHS BY YURI MANABE
TEXT BY TOSHIYA OGUMA

今までのやり方だけではダメ

本セッションの冒頭で若林が述べたように、ひと昔前までは大多数のビジネスパーソンにとって、会社の先輩に言われたことをやるのが「仕事」だった。しかし、従来型の雇用形態が崩壊しつつある今日では、スタートアップやフリーランサー、パラレルキャリアといったふうに、働き方や仕事の内容も多様化している。

十人十色のワーキングスタイルが選べるようになり、個人の力が発揮しやすくなったからこそ、「何のため/誰のため」に働くのかも重要になってくる。他人の人生も豊かにするような働き方はどうしたら見つけられるのか。多くの企業がミッションを公開し、社会貢献について打ち出しているなかで、個人のミッションと会社・社会のミッションはどのように重ねられるべきなのか。

「ミッション」の観点から働き方を考えるべく、ふたりのゲストが迎えられた。まずは一般社団法人Social Innovation Japanの代表を務めるマクティア マリコ。サステナブルな社会を実現するための活動に取り組む彼女は、最初にその事例として、自身が創設した日本初の無料給水アプリ「mymizu」を紹介した。日本で一日に6900万本、年間で252億本ものペットボトルが消費されているなか、マイボトルに水を補充することでプラスチックの消費量を削減し、自然環境や人間の健康を守ろうと考えたのがアプリ制作のきっかけだったという。

そのあと若林が、そういった活動をするようになった経緯について質問。ロンドン出身で日本人の母を持つマクティアは、大学を卒業後、中日新聞社のロンドン支局に記者として勤務。その頃に、環境問題のようなテーマが日本で取り上げられない状況に疑問を持ったという。「日本にはリソースもあるし高度な教育も受けているはずなのに、それを活かす仕組みが少ないのはもったいないと思った」と語る彼女は、日本に移ってからイベントやワークショップなどを通じて、バックグラウンドの異なる人々が交流する機会を設け、深刻な社会問題に取り組むための下地づくりに貢献してきた。

かたや三原良太は、新感覚のイヤホン「ambie sound earcuffs」を設計するため、ソニー社員でありながら、ベンチャー企業を立ち上げたという異色の経歴をもつエンジニア。「新しい価値観を届けるため、あえて会社のブランドには頼らなかった」と彼は力説する。

SpotifyやApple Musicなどストリーミングサービスが普及し、プレイリストで音楽を聴くのが身近になった時代に対応すべく、「ambie」は耳を塞がない装着方法とソニーの音響技術によって「ながら聴き」スタイルを実現。周りの音を遮らないため、オフィスや外出先で誰かと話したり、スポーツやアウトドアに打ち込んだりしながら、自分だけのBGMを快適に一日中楽しむことができる。

しかし、三原が構想した「ながら聴き」スタイルは、高音質を追求してきたソニーのイヤホン戦略とはかけ離れたものだった。そのため、彼は外部で開発する道を選び、投資会社WiLとジョイントベンチャーambieを立ち上げて完成に漕ぎつけた。三原は流通・マーケティングまでも手掛け、結果的に「ambie」は発売4日で初期ロットが完売。200以上のメディアで取り上げられ、オーディオ業界に新風を巻き起こすことになる。

とはいえ、チャレンジには失敗がつきものだ。近年、ビジネスの世界では先行きが不透明になっているなかで、「まずはやってみよう」という感覚がどのくらいあったのかと若林が尋ねると、「ちょうど自分が(2010年に)入社した頃に、社内でオープンイノベーションの機運が高まっていたことにも影響を受けた。『今までのやり方だけではダメ』という空気は(ソニー社内にも)あったし、ある程度のリスクヘッジさえできていれば、違うやり方を試してみようと後押ししてもらえる。そういう意味で今はいい時代だし、環境にも恵まれた」と三原は答えた。

みんなでやれば文化になる

その後、マクティアの登壇もあり、若林が「ぜひ聞きたかった」という気候変動の話題へ。グレタ・トゥーンベリの活動などで国際的な注目も高まるなか、環境問題は働き方を考えるうえでも無視できないイシューとなっている。SDGsのような大きなテーマとも対峙しながら、どのように持続可能な社会をめざしていけばいいのか。その問いにマクティアが答える。

「そろそろ変わらなければいけないのは、みんな内心わかっている。でも、具体的に何をすればいいのかは見えていない。そんな状況だからこそ、『このくらい変わらないと本当におしまいですよ』という極端なポジショニングをしていくことも大事だと思う。イギリスやヨーロッパではすでに、経済システムを全体的に変えなければまずいというのは、政治レベルで議論されています」

三原良太 | RYOTA MIHARA

2010年にソニー入社後、ヘッドマウントディスプレイやBluetoothイヤホンの設計を担当。2017年 「ambie sound earcuffs」のプロジェクトリーダーとして、 ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツとWiLのジョイントベンチャーであるambieを立ち上げ出向。開発から流通、マーケティングまでを中心となって行う。

しかし実際には、若林も指摘していたが、かつての成功体験に縛られた上の世代を中心に、グレタの揚げ足をとりながら、旧来のシステムを維持しようとする声も根強くある。そういった人々の存在も踏まえて、システムを抜本的に変えていくべきと思うか若林が尋ねると、マクティアは「そう思います」と即答した。

そうは言っても、気候変動という巨大スケールの困難に対し、個人がもつ力はあまりにも小さい。その無力感を受け止めながら、どうやって問題と関わっていけばいいのか。若林がそう質問すると、「個人だけでは何もできないという現実が、『mymizu』をはじめるきっかけのひとつでした」と彼女は答え、このように続けた。

「私たちが全員ペットボトルを使うのをやめたとしても、それだけで気候が変わったりするわけではない。でも、そこで終わりだとは思っていなくて。私たちは買い物だったりを通じて、いろんな決断を日々している。電力会社が再生エネルギーを使っているのか、もしくは肉を食べないようにするのかなど、物を買うことで“投票”しているんです。だから、それこそマイボトルを使うようにしたり、何かひとつ行動を変えることによって、自分がめざす世界にもっと投資しようと意識が変わってくるかもしれない。そんなふうにみんなが行動するようになったら、何かが変わると思うんです」

実際、すでにヨーロッパではそういった変化が起こり始めているという。定期的にイギリスへ帰るようにしているというマクティアは、現地の光景をこのように語った。

マクティア マリコ  | MARIKO MCTIER

一般社団法人Social Innovation Japan代表理事・共同創立者、mymizu共同創立者。ロンドン大学卒業後、中日新聞社ロンドン支局に務め、2014年に駐日英国大使館の国際通商部に勤務。日本と英国間のイノベーションを促進すると共に、2017年よりフリーランスとして社会的企業でプロボノやコンサルティングの仕事を受け始める。日本において世の中の深刻な課題に取り組むビジネスを増やすため、同年一般社団法人Social Innovation Japanを立ち上げ、現在その運営やサスティナビリティ関連プロジェクトを総括する。その一環として、ペットボトルの削減をミッションにした、日本初無料給水アプリ「mymizu」を立ち上げ、サーキュラーエコノミーを促進する「Circular Economy Club」の東京担当も担う。2018年に社会起業家支援を行うAshoka(アショカ)の若手社会起業家を対象にしたプログラム「ChangemakerXchange」に採択。

「向こうではマイボトルをもつのが普通になっていて、オシャレでかっこいいボトルをもったりすることが、自分の意思表示をする手段にもなっている。それをみんなでやれば、ひとつの文化になる。そうやって国レベルで変わっていくと、影響力もだいぶ大きくなるのかなと」

彼女の言うとおり、消費行動を変えていくことは企業へのプレッシャーにもなっていく。実際、大企業の側もありようを考え直すフェイズに入っており、「つくり手側としては難しい問題でもある」と三原は語る。

「これまでだったら、ポジティヴな要素をアピールするだけで商品を買ってくれたんですよ。でも若い人たちは、企業が商品をつくったことへの責任より、ユーザーとしてそれを買うことへの責任を考えるようになっている。責任をとるのが企業だった時代を経て、今はユーザー側が責任をとるというマインドになっていて、それが消費行動にも直結している。そういう意味で、ものづくりしている立場としては、説明すべきことが以前より格段に多くなっています。あっけらかんと物を売るのではなく、世の中の問題も踏まえたストーリーテリングが求められているのを感じますね」

若林によると、これまでは作る側の都合で供給されていたのが、どこかのタイミングで主客が逆転し、最近では「安ければ何でもいい」よりも「少し高くても環境にやさしいもの」を買う人が増えているという。そういった消費意識の変化を、マクティアは前向きに受け止めている。

「ニューヨーク大学による購買行動のリサーチでも、『サステナブルな商品は消費者に支持されている』という統計結果が出ています。自然保護を考えた商品だけ買うようにしようとか、『こういう世界をめざしているからこれを買う』という人が増えてるんでしょうね」

ものづくりの民主化、サービスの多様化

上述したように社会状況やユーザーの意識が変わったのであれば、おのずと仕事のあり方も変化してくるはず。そこで若林は、「仕事で社会をよくしていきたい、という気持ちはある?」とふたりに質問。三原とマクティアは、それぞれの立場からこのように答えた。

「自分が開発している商品もプラスチックを使っているけど、エンジニアの立場として、ものづくりにネガティヴなイメージがついたらどうしようという想いはあります。だからこそ、ものづくりのワクワク感と、大量生産・大量消費への問題意識は分けて考えたい。ものづくりを否定しすぎると、新しいものが生まれなくなってしまう。それはやっぱりもったいないと思うので」(三原)

「プラスチックが悪いというより、使い捨てのほうが問題だと私も考えています。どこかで消費の仕方がズレちゃったんじゃないのって。きっと商品をつくった人は、みんな長く愛用してほしいと願っているはずなのに、今の世の中だと1年くらいですぐに捨てられてしまう。そうやって資源を大切にしてこなかったことが、気候変動みたいな問題を生み出しているのに。ものづくりの本質を大切にできれば、資源の流れも変わってくるんじゃないかな」(マクティア)

これまでの社会では、科学技術のめざましい進歩こそが、便利で豊かな生活をもたらすと謳われてきた。戦後の日本で経済成長を促進させたのも科学技術に他ならない。しかし一方で、科学技術は人間社会と地球環境を脅かす負の側面をもつことも明確化してきている。「エンジニアのような人は、『ものづくりが楽しい』というのを、自分たちの仕事がニュートラルであるということのアリバイに使うことも多かった気がしている。今後はそこをもう少し意識的に考えていかなければいけないのかな」と若林が語ると、三原もこのように答えた。

「学生の頃はずっと研究室にこもっていたけど、ソニーに入社してから、誰かに向けてものづくりするのが楽しいと気づきました。でも、『一万台売らなきゃ』と言われると、売れなくて捨てられたものはリサイクルどうするのって話だし、隠居してひとりでつくって売りたいなって気持ちにもなってきて(苦笑)。実際、最近では大量生産ではなく、パーソナライズしたいいものを小ロットで作ろうという動きも増えている。たとえば屋台でつくったものをユーザーに直接届けるような感覚で、ものづくりの民主化が進んでいけば(資源の)ロスも減るはず。自営業でプロダクトをつくったらお客さんが来てくれるなんて最高だよねって話はよくしているし、きっとそういう世の中になっていくと思うんですよね」

とはいえ、大企業はプロダクトの大量生産・大量消費によって利益を上げてきたのも事実。そのビジネスモデルが成り立たなくなったとき、大企業に生き延びる方法はあるのか。若林の質問に対し、マクティアは「すでに実現されている」として、オランダを本拠とする電機メーカーのフィリップスの取り組みを紹介した。

日本では電気カミソリや電動歯ブラシのメーカーとして知られるフィリップスの歴史は、1891年に炭素フィラメント電球を製品化したことから始まった。しかし現在では、限りある資源のためにビジネス形態は大きく変化。「お客さんが求めているのは電球ではなく“明るさ”だと気づいたフィリップスは、明るさをサービスとして提供するようになった」と彼女は説明する。

フィリップスによる照明インフラサービス「Lighting as a Service」では、照明の性能そのもに加えて、電力量を削減するための仕組みも提供。LED照明に組み込まれたセンサーが太陽光を感知して明るさを調整し、削減した電力料金に応じて報酬を得るという成功報酬モデルを採用しており、エネルギー効率の面でも従来の照明より優れている。「1年しかもたない電球を売る代わりに、安定して使えるサービスに切り替えたことでWin-Winの関係を作れるようになった。会社のかたちは変わるのかもしれないけど、そもそもお客さんに何を届けようとしていたの考え直す必要があると思う」とマクティアは語る。

「仕事」がなくなることはない

マクティアが紹介したフィリップスの話は「モノよりコト」の典型例といえるが、それを可能にしたのはテクノロジーの進歩だ。AIが今後さらに発達すれば、人間は働かなくてよくなり、もっと楽しく生きていけるという話もあるが、若林はそういう言説が「本当に嫌い」なのだという。なぜかといえば、そもそも仕事するのが好きだから。これに対し、マクティアはこのように語った。

「産業革命のときも機械によってみんな仕事を失うんじゃないかと心配されたけど、そのあとにもっと頭を使う仕事がたくさん生まれた。今のかたちの仕事がなくなったとしても、人間が体験を求める限り、(働き方の)選択肢はむしろ増えるんじゃないかな。仕事の定義は変わってくるかもしれないけど、みんなが自分に合ったかたちで、何か価値を生み出すことができるようになるといいと思う」

社会のシステムが変容していくなかで、仕事やものづくりのあり方もターニングポイントを迎えている。その一方で、今現在に関して言えば、何かが変わろうとしているとも、まだ何も変わっていないとも言えるだろう。目に見えるほどの変化は、この先どのくらいのタイムスパンで実現すると思うか。若林の質問に、三原はこう明るく答えた。

「わりと早い段階で実現すると思いますね。実際、イヤホンだったら手ごろな成型機で作れてしまう。シリコンが焼ける温度とたい焼きが焼ける温度ってだいたい一緒で(笑)。そうなれば個人のキャッシュでまかなえるので、何か事例が出てくればあっという間に広がるんじゃないですか」

最後に、trialog vol.9のテーマである「いい仕事」の定義について、ふたりはこのように答えた。

「僕はものづくりを通じて、新しい価値観を世に送り出そうという気持ちが強い。会社の人に口頭で伝えても『よくわからない』と言われたものを、でっちあげのプロとして無理くり作り上げて(笑)、『これなら一緒にやりたい』と周囲を巻き込み、それを発表したとき『そういうことだったんだ』とみんなから言ってもらえると、オセロをひっくり返したような気持ちになる。ambieもゴミ箱に落ちてたイヤホンを拾って、アルミのパイプをまげて最初のプロトタイプを作り、そこからどんどんデモを重ねてここまできた。そういうのは体験としても大きい」(三原)

「最近読んだ本に、人間は問題を解決すると幸せになれると書いてあった。私は自然が大好きで、できたらずっと海や山にいたいけど、今は大変なことになっている。私は自分のためにも、次の世代のためにも、この自然を残していきたい。だからこそ、私にできることからスタートしようと。そういう気持ちでやり続けていれば、私にとって『いい仕事』ができているのかなって思える気がします」(マクティア)

イベント終了前のラップアップセッションで、trialog共同企画者の水口哲也は「いい仕事をしている人たちはみんないい顔をしている。自主的に動きながら、その人なりの価値観でもって、目標のために動く。その探求心さえあれば基本的にOKなのかなと思った」と話していた。マクティアはセッションの途中、自分の仕事を「ライフワーク」と位置づけていたが、「いい仕事」について考えるのは、自分なりの生き方を探すことに似ているのかもしれない。

ABOUTtrialogについて

WHAT’S “trialog”?

trialogとは、実験的な対話のプラットフォームです。

世の中を分断する「二項対立」から、未来をつくる「三者対話」へ。
trialogは異なる立場の三者が意見を交わす空間をつくり、
「ほんとうに欲しい未来はなにか?」を考えます。

代表を務めるのはblkswn コンテンツ・ディレクターの若林恵。
さらに、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也が
共同企画者として参加します。ソニーのサポートのもと、
ジャンルや国境を超えた多彩なゲストを迎え入れたイベントを開催し、
対話のためのコミュニティ形成を目指してゆきます。