trialog Partnered with Sony
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VOL.10 CREATOR & SOCIETY

クリエイターと社会のディスタンス

真っ二つの世界をつなぐためにできること

SESSION 3:TAO×YonYon×若林恵
SESSION 4:神戸雄平×アンドレ・ルイス×水口哲也

2020年10月10日(土)に開催されたtrialog vol.10では「クリエイターと社会のディスタンス」をテーマとし、国内外のさまざまな分野からゲストが登壇。「エッセンシャル」「エンパワーメント」「アクション」「デジタルプレイス」をキーワードに4つのトークセッションを行った。trialog初の無観客オンラインでの開催、ゲスト登壇者は全員リモートでの出演となったが議論は大いに盛り上がり、ライブ動画配信は約150万回を記録した。

今回は前後編の二部構成で、約4時間に及んだ当日の模様をレポート。#SaveOurSpace発起人の篠田ミルとエムスリーの山根有紀子を迎えたSESSION 1、ゲームデザイナーのミツ・カンダガーとソニー・インタラクティブエンタテインメントの吉田修平を迎えたSESSION 2について振り返った前編に引き続き、この後編ではSESSION 3「クリエイターのアクション」とSESSION 4「クリエイターとデジタルプレイス」の模様をお届けする。

PHOTOGRAPHS BY YURI MANABE
TEXT BY TOSHIYA OGUMA

SESSION 3 Action

「学ぶこと」を放棄しないために動く

パンデミック以降、文化やクリエイティブが厳しい状況に追い込まれたことを受け、SESSION 1に登壇した篠田ミルのように、多くのアーティストやクリエイターが窮状を訴えてきた。また、SESSION 2でミツ・カンダガーも語っていたように、2020年はさまざまな問題が浮き彫りとなり、不正に立ち向かうべく世界中で抗議運動が勃発しているが、分断の溝はそう簡単に埋まりそうにもない。

私たちはこの難しい時代とどのように向き合い、どんな行動をするべきなのか。そこで文化はどんな役割を担うことができるのか。SESSION 3ではハリウッドを中心に活躍する女優・モデルのTAOと、DJ・ソングライターとして国内外で活躍しているYonYonを迎えて、「クリエイターのアクション」をテーマに議論。若林恵がモデレーターを務めた。

ソウル生まれ東京育ちのYonYonは、その多文化的なバックグラウンドを踏まえて、自身の役割を「架け橋」と定義。DJとしてはジャンル・言語の垣根を越えたミックススタイルを持ち味とし、日本語と韓国語を交えた歌・ラップを披露しているほか、日韓の音楽シーンをつなぐ「THE LINK」プロジェクトを立ち上げ、さらに裏方としてイベントの企画・制作も手がけるなどマルチな活動を行っている。

タオ|TAO

ハリウッドを中心に活躍する女優、モデル。DONNA MODELS、ICM PARTNERS(ハリウッド)所属。 14歳で日本モデルデビュー、2006年よりパリコレクション参加、その後ミラノ,ロンドン、ニューヨークとワールドワイドにファションモデルと 2013年『ウルヴァリン:SAMURAI』で女優デビュー。 以降も『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』などの大作を中心に活動中。また、国内外のチャリティ活動にも積極的に参加。 東日本大震災以降自ら発起人となり日米でチャリティバザーを開催、売上金全て被災地に寄付。最近は環境問題に関心が深く、活動を続けている。 LA在住。 
環境問題/アニマルライツなどについてPodcast配信中
anchor.fm/emerald-practices

彼女はコロナ禍をきっかけに、「アジアの玄関」と呼ばれる福岡に移住し、よりアジアの音楽シーンとの繋がりを持ち、シーンに広く貢献していくことを決心。その背景には、文化芸術に対する支援が行き届いていない状況への危機感も関係していた。「私はこれまでDJ・アーティスト活動で生計を立ててきたけど、コロナ禍によって現場の仕事が一度なくなってしまったことで、自分の活動を見つめ直すようになりました。バドワイザーが音楽・芸術アーティストを対象に行った調査でも、コロナウイルスの影響で『収入が減った』という人が74.2%で、アーティストの77%が支援を受けておらず、『活動を諦めようと思っている』と5割近くの人たちが回答している。もし行政側にもっとアートをリスペクトし、芸術の価値を大事に思う人がいたら、このデータも変わっていたはず」とYonYonは語る。

かたやコネチカット州の自宅からリモート登壇したTAOは、日本以上に感染拡大の一途を辿っている国の現状を憂いながら、「アメリカはCOVID-19に政治の問題も絡んでしまい、二次災害が並行して起きているような状況。今は映画のプロダクションも止まっているため、俳優としても休業状態」と近況を報告した。

アメリカでは今年5月のジョージ・フロイド事件を契機に、Black Lives Matter(以下、BLM)が再浮上。抗議活動は世界中に広まり、社会全体が騒乱状態になっていった。それを受けて、アメリカに住む人々は社会的・政治的スタンスについて否が応でも考えなければいけなかったのではないか。若林のこの質問に対し、「ソーシャルメディアの発達もあり、(社会的イシューについて)発言をしない、自分のスタンスを明かさないというのは、今のアメリカでは許されないこと。私は日本生まれの日本育ちだけど、アメリカに10年以上住んでいるから、自分のスタンスや信念を人前で話すことにも慣れてきました」とTAOは答える。

以前からウィメンズマーチや気候マーチに参加してきたTAOは、BLMの抗議デモにも参加し、「すごくエネルギッシュで、何万もの人々がシュプレヒコールを上げる光景は日本にいたら体験できないこと」と振り返っている。そこから彼女は、アメリカでの実体験と日本でのBLMの受け止められ方に、大きなギャップを感じるようになった。

ヨンヨン | YonYon

ソウル生まれ東京育ちというバックグラウンドを持ち、DJ、ラジオDJ、シンガーソングライター、プロモーター、としてマルチに活動するクリエイター。2012年にDJとしてキャリアをスタート。ジャンル・言語の垣根を越えて直感的に組み立てていく独自のミックス・スタイルを確立し、日・韓のみならずアジア、アメリカ、ヨーロッパの様々な都市のクラブや大型フェスなどに出演。また、日韓の音楽シーンを繋ぐキーパーソンとして「THE LINK」プロジェクトを立ち上げ、両国のプロデューサー、シンガーを楽曲制作という形で繋ぎ、自身も日本語と韓国語を交えた歌/ラップを披露している。

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「BLMについて報道されたときに、日本の人から『デモの暴動は大丈夫?』と心配されたんです。たしかに一部の暴徒化は問題だったけど、実際に私が見てきた抗議活動はピースフルだったし、過激な映像で惑わせて、プロテスターの訴えをかき消してしまうような報道が怖くなった。そこから私は、日本の人たちに事実をどうやって伝えるべきか考え、Instagramを通じて情報やメッセージを発信してきました」

日本で今年5月、ハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」が数百万ものツイートで拡散されたとき、これまで政治的な発言をしてこなかったアーティストや芸能人の投稿も相次いだことから、SNS上では「何も知らないくせに」と批判が殺到。謝罪に追い込まれるケースも見受けられた。社会問題にコミットすることへのアレルギーや、「出る杭は打たれる」という日本の悪しき慣習とどのように向き合っていくかは、クリエイターにとっても重要な課題である。TAOはどういった経緯でアクティビズムを実践するようになったのか。

「日本にいたままだったら大多数の意見にまみれて、何のアクションも起こしていなかったと思います。声を上げることが怖くなくなったのは周囲の影響が大きくて、彼らのアクションを見ているうちに、私も行動せずにはいられなくなった。日本のセレブリティが『知らないくせに発言しないで』と叩かれていたけど、社会問題を100%理解するのは学者さんでも難しいこと。今回のBLMに関しても、私は行動しながら差別の背景を学んできました」

YonYonはこの話を受けて、「外に発信することはもちろん大事だが、身近な人たちと共に議論を交わしてみること、ひとりひとりが問題意識を持つことが大事。自分の場合、ミュージシャンという立場として、自分のメッセージを歌に込めたりすることもできる。ただ、社会問題についてはアーティストである以前に、まずはひとりの人間として考え、主張していきたい」と語った。さらに、「アーティストは政治を語るな」といった類の批判について、当事者の彼女はこのように述べている。

「アーティストや芸能人を一コンテンツと捉えていて、ひとりの人間として認識していない人が多いですよね。ポジティブな事柄を発信するのは許されても、怒りを顕わにすることは認められていない。テニスの大坂なおみ選手がマスクを着けて(BLMへの連帯を)アピールしたときも不満の声がたくさん上がったけど、『スポーツ選手のくせに』と叩く前に、なぜ彼女がそういう行動を取ったのか、立ち止まって考えてみるのが先ではないか」

TAOもYonYonの話に同意し、「彼女の抗議が『日本人らしくない』とするネガティブな意見もあったけど、偏見やカテゴライズで人の性質をまとめたがる発想こそ、BLMが抗議しているような差別につながるもの」と指摘。さらにこのように続けた。

「日本は輪を乱すことを嫌がる傾向にありますよね。大坂さんの件で、彼女が主張を通すために多くの人々に迷惑をかけたんじゃないか、みたいな意見があったけど、『黙ってることが正義』というのはおかしいと思う。自分のスタンスを表明せず、中立であることが平和主義という感覚はそろそろアップデートしていく必要があると思います」

未来に種をまくための作法

そして若林が、社会への問題意識をミュージシャン/俳優として作品や表現に昇華させるとなったときに、どういったことを考えているのか質問すると、二人はそれぞれこのように答えた。

「『俺が世界を変えると言っているわけじゃない。だが約束する。俺が刺激した脳がやがて世界を変えるだろう』という、ラッパーの2パックが残した名言をいつも意識しながらアーティスト活動をやっています。自分の音楽や行動で世界そのものを変えるのは難しくても、次の世代のリスナーに気づきを与えることならできるのではないか。同じように、ひとりひとりが隣の人をどんどん巻き込んでいけば、少しずつ世界が変わっていくはず」(YonYon)

「アメリカではショーン・ペンが立ち上げたCOREというNPOが、ジェニファー・アニストンやブラッド・ピットのようなトップスターをオンラインで集めて、無料でPCR検査を受けられるよう寄付を募っていた。自分がそんな社会の一員であることを嬉しく思っている。誰かに影響を与えられる仕事に就いていることを大切にしたいし、私の出演作やSNSを見た人に、少しでも何か考える時間を与えることができたら、役者冥利に尽きますね」(TAO)

質問タイムでは、るってぃ(プロ無職)が自身のアーティスト活動を踏まえて、「自分は『言葉』を使いながら、SNSを主軸に表現活動を行ってきたが、その『言葉』が逆に分断を作っているように感じるときがある。『言葉』が性質的に矛盾を嫌う一方で、『現実』は矛盾がないと駆動しない。その矛盾とどうやって戦ってきたのか?」と問いを投げかけた。それについて、TAOはこのように答えている。

「それはきっと、今まで知らなかったことに気づき始めたり、信じてきたものに裏切られたりして、世界が真っ二つに割れたように混乱している状態だと思う。でも、そのプロセスは避けて通れないもの。私もフェミニズムについて友人たちに話をしたとき、準備ができてない子は拒否反応を示したりした。そんなふうに自分の知識と相手の準備が一致しないときは、批判したり攻撃的になるのではなく、『こんなチョイスもあるんだよ』と紹介するように発信することを心掛けています。そこからディベートを重ねていくことで、そのインフォメーションが人生にどう役に立つのか、自分自身で考えることは大切なプロセスだと思う」

分断の時代を終わらせるためには、お互いの相反する主張と向き合い、例え意見が100%合致しなくても、うまく重ね合わせていくことが重要になってくる。TAOの言うとおり、そのためには「準備」も必要で、そこでYonYonが語っていたように、文化やクリエイティブが想像力の種を植え、新しい土壌を作っていくような役割を担うことができるはずだ。セッションの最後に二人が語っていたように、文化には「いろんな価値観や考え方がある」という気づきを与え、人生を豊かにするための選択肢を増やすことができる。その想像力によって人々が成長し、新しい社会を切り開いていくことで、よりよい未来に近づくことができるだろう。

SESSION 4 Digital Place

クリエイティブに必要なのは語り合える同志

2018年6月に開催されたtrialog vol.1では、ゲームやVR、アニメーションなど分野を横断しながら、デジタルクリエイティブの新たな可能性について議論された。あれから2年。リアル空間での行動が制限されるなか、世界中のクリエイターやプラットフォーマーが、バーチャルの可能性を模索しながら、ポストコロナ時代の新たな表現を提示し始めている。

さらに、2019年3月に開催されたtrialog vol.5では「新しいチームのつくりかた」について話し合われたが、リアル空間でのイベントやワークショップの開催が難しくなったことで、クリエイターがどのようにコミュニティを形成し、創作活動の輪を広げていくべきなのかも改めて問われている。このSESSION 4では、PERIMETRON所属のデジタルアーティストである神戸雄平と、ポルトガル発のクリエイティブコミュニティTrojan Horse was a Unicorn(以下、THU)ファウンダーのアンドレ・ルイスを迎えて、「クリエイターとデジタルプレイス」をテーマに議論。水口哲也がモデレーターを務めた。

King Gnuの首謀者である常田大希が立ち上げたクリエイティブレーベル「PERIMETRON」は、常田が率いるKing Gnuやmillennium paradeを筆頭にさまざまなアーティストのミュージックビデオを手がけるほか、ブランドCMやファッションフィルム、プロダクト/空間デザインなどジャンルに縛られない形で、カッティングエッジな創作活動を繰り広げている。神戸がPERIMETRONに加入したのは2018年のこと。CGクリエイションを担当している彼は、Netflix『攻殻機動隊 SAC_2045』の主題歌となったmillennium parade「Fly with me」のMVで監督とアートディレクションを担当。モーションキャプチャーを用いたフルCG作品は大きな話題を呼んだ。

アンドレ・ルイス | ANDRE LUIS

Trojan Horse was a Unicorn 創設者 。Trojan Horse was a Unicorn(通称THU)は、世界中のクリエイター達が”体験”を求めて集うグローバルなクリエイティブコミュニティ。 大学にて工業デザインを専攻後、大学院にてマーケティング・マネジメントの修士号を取得。デザインやマーケティング、ウェブ開発、コンピュータ・グラフィック領域といったキャリア・バックグラウンドを持ちつつも、これまでと違うこと、社会にとって有用であることへの興味、そして人々の生活に影響を与えることをしたいという願望が芽生え、2013年にTHUを創設。THUは、世界中にプロジェクトを持つグローバルな組織であり、デジタル・エンタテインメント産業に影響を与えながらも、クリエイティブ・コミュニティをサポートすることを目的としている。
Trojan Horse was a Unicorn: https://www.trojan-unicorn.com

水口に近況を尋ねられた神戸は、「『クリエイターは孤独なもの』とよく言われるけど、それまでPERIMETRONの事務所でずっと働いていたのを、自宅に制作拠点を移したことで、『孤独』という原点に立ち返ったような感覚です」と回答。そんな神戸について、もう一人の登壇者であるアンドレは「実は以前から Instagramをフォローしている。素晴らしいクオリティだし、心を奪われるような作品を作っていますよね」と賞賛した。

アンドレは2013年に、THU(トロイの木馬はユニコーンだった)というユニークな名前を持つアートコミュニティを立ち上げた。THUは年に1回、欧州でブートキャンプ方式のイベントを6日間にわたって開催。3DCGやVFX、ゲーム、コンセプトアートなど各分野のクリエイターが一堂に会し、日夜を通して著名アーティストによる講演やディスカッションが繰り広げられるほか、美味しい料理も提供され、寝食まで共にすることで、交流を深めながらコミュニティ全体のレベルアップを図っている。THUで参加者は「トライブメンバー」、ゲストスピーカーは「ナイト」と呼ばれ、昨年には水口もナイトとして参加している。

神戸雄平 | YUHEI KANBE

デジタルアーティスト。2018年に映像編集プロダクションを退社し独立後、PERIMETRONと合流。PERIMETRONやmillennium paradeで、主に3DCGを扱い活動中。Netflixにて独占配信されたアニメーション「攻殻機動隊 SAC 2045」のオープニングテーマとなったmillennium parade「Fly with me」のミュージック・ビデオは、全編がモーションキャプチャーの技術を用いたCGアニメーションで構成され、監督、アートディレクションを担当した。

世界75カ国から同志が集い、最高の環境でクリエイティブに没頭できるTHUがもたらそうとしているのは、一生ものというべき貴重な体験だ。アンドレはTHU創設の経緯について、「それまで母国のポルトガルでは、クリエイターが活躍できる環境が整っていなかった。そこで私は、アートを共通言語にした上下関係のないコミュニティが必要だと考えました。クリエイターの多くが内向的ですが、イベントを通じて同じ時間を過ごすうちに絆が生まれるんです」と説明し、このように続けた。

「私は自宅で家族をもてなすのと同じように、トライブを分け隔てなくもてなしたい。お互いを尊重し合い、クリエイティブの鍵を交換し合うことで、飛躍のきっかけを見つけ出すことができるんです。クリエイティブには同じ言語で語り合える場が必要。THUで大切なのはデジタルクリエイティブへの熱意があるかどうか。あとはデジタルアートやグラフィックデザイナー、UXやマーケティングも同じエコシステムの一員。誰もがディベロッパーになれるという意味でも平等で、適切なコネクションを形成していくことが重要なんです」

ジャンルの垣根を超えたつながりは、PERIMETRONが実践してきたことでもある。神戸はアンドレの話を踏まえて、「クリエイティブを共通言語につながるのは、僕らも大切にしていること。PERIMETRONでも『昨日のテレビ見た?』と話すような感覚で、クリエイティブについて日常的に語り合っている。そこは自分たちとも似ているように思いました」と述べた。

水口も指摘していたように、PERIMETRONは密度の濃いチームワークによって、優れた作品を多数手掛けている。その「集団戦」において、彼らはどのように意思疎通を図り、各々のアイディアを作品に昇華させているのか。神戸は「Fly with me」MVの制作を振り返りながら、このように説明する。

「『Fly with me』では、高いクオリティを実現させるために、たくさんのCGクリエイターが制作に関わる必要があった。そこで印象的だったのは、『こうしたほうがいい』と話し合いを重ねていくことで、それぞれに作品への愛情が芽生えていったこと。そこから大きな共通認識が形成され、同じベクトルに向かっていくことができた。そういう意味では、むしろアナログな考え方で作品をつくっていたような気がします」

現実とデジタルのディスタンス

そこから水口は、「クリエイターと社会のディスタンス」というvol.10のテーマを踏まえて、社会との距離感をどのように作品へ反映させているのか質問。神戸はこのように答えた。

「外出自粛期間(今年2~5月)には、アットホームで親密な表現が求められていた。でも最近は、もっと刺激的でパンチのある作品へのニーズが高まっている。そういう意味でも、社会性を作品に落とし込むのは非常にセンシティブ。僕らの場合は、社会的なテーマやトピックを作品に反映させようとなったとき、まずは自分たちのなかに落とし込んで咀嚼し、しっかり吐き出す準備ができた段階で初めてアウトプットするという形をとっています」

かたや、「つながりをベースにした活動をしていたので、コロナ禍でイベントが開催できなくなるなんて思ってもみなかった」と語るアンドレは、「コロナ禍で失われたのはトライブとの接点。いつもイベントで目の当たりにしてきた連鎖反応や、アイディアを出し合うことで生まれる輝かしい可能性は、デジタル上では再現不可能なもの」と惜しみながら、今年11月にオンラインイベント「THU Career Camp by Lenovo」の開催を控えるなど、THUで新たな展開を模索している。彼は「社会のディスタンス」とどのように向き合ってきたのか。

「私たちはリサーチから始めました。あらゆるトライブに話を訊いて、そのプロセスでいろんなことを学びました。もはや世界は元には戻らないかもしれない。そこでTHUは、新しい仕事を探し、ポートフォリオへのメンターシップとフィードバックを求めているクリエイターを対象に、デジタルでのつながりを提供するための新しいプラットフォームを立ち上げることにしました。この状況下に何が足りていないのかを見極めながら、クリエイターを救うためのイノベーションを起こせたらと思っています」

ラッパーのトラヴィス・スコットと人気ゲーム『フォートナイト』がコラボレーションし、今年4月に同ゲーム内で開催されたバーチャル音楽イベント「Astronomical」は2700万人以上のユーザーが参加。従来のライブではありえなかった演出を可能にし、「リアルなライブの代替」を超える体験が提供するとともに、メタヴァース(インターネット上の仮想空間)を活用したエンターテインメントの可能性を世界中に知らしめた。

しかしその一方では、さまざまな分野でデジタルシフトが加速していくなかで、代替不可能なものが多くあることも浮き彫りとなっている。水口はアメリカ・ネバタ州の砂漠で毎年開かれてきた伝説的フェスティバル「バーニングマン」が今年はバーチャル開催となったことを例に上げ、砂漠をVRで再現するなどユニークな試みはあったものの、フィジカルとソウルを燃焼させることで生まれる活気は失われてしまったと指摘。そういった事例も踏まえつつ、クリエイティブの未来はどのようなものになると思うか二人に尋ねた。

「リモートによる協業は大きな変化。私たち3人がこうやって(ツールを介して)話しているのと一緒で、同じ空間を共有しなくてもクリエイティブな活動をすることはできる。これからはクリエイターが今までと違うライフスタイルを模索しながら、自分の意思でキャリアを選択するようになっていくと思います」(アンドレ)

「昨年のライブ活動がそうだったように、デジタルと肉体性の融合はmillennium paradeでも挑戦し続けていること。リアルな場がなくなったことで、熱量のあるリアクションが得づらくなったのは残念ですが、その一方でデジタルクリエイターにとっては、さらに表現のフィールドが広がっている。かといって、メタヴァースのような新しい技術やツールに必ずしも迎合する必要はないと思う。ツールに踊らされるのではなく、むしろ逆手に取るようにしていきたいです」(神戸)

Zoomのようなツールによって、リモートでの制作が容易になり、コミュニケーションのあり方も変容しつつある。その一方で、ミュージシャンの草野絵美が質問タイムで指摘したように、コロナ禍の影響によって、クリエイターが新たなつながりを見つけづらくなったのも事実。とくにオフラインで学ぶ機会を失われた若い世代に対しては、企業や業界によるサポートも必要になってくるだろう。

そこで最後にアンドレから、ソニーとTHUによる次世代型コンペティション「Sony Talent League by THU」が紹介された。ここでは「Break The Creative Distance」をテーマに、18歳〜30歳のクリエイターによるアイディアを全世界から募集。個人または3人までのチームでの申し込みが可能で、ファイナリストに選出された3名(3組)は、審査員を務めるクリエイター陣による10週間のメンターシップを受ける権利と、上限12,500€(約155万円)を生活費として支援し、創作活動に集中できるようにサポートが行われる。さらに、グランプリに選ばれたプロジェクトには、賞金10,000€(約125万円)と、2021年に石川県加賀市で開催予定の「THU Japan」へのチケットが進呈される。

審査員としてこのグローバルチャレンジに携わるのは、『スパイダーマン: スパイダーバース』で知られる映画監督のピーター・ラムジー、韓国が誇るグラフィックアーティストのキム・ジョンギ、『フォートナイト』を開発したエピックゲームズ社のイノヴェイションラボ主任アリスター・トンプソンなど、国際的に活躍するトップクリエイターたち。さらに、trialog vol.1に登壇した塩田周三とデヴィッド・オライリー、そして水口も名を連ねている。応募締切は11月9日(ポルトガル時間)。詳細は公式サイトにて。

Wrap up

クリエイティブは社会を再設計する原動力

最後に今回のtrialogを振り返るラップアップセッションのため、若林、水口とソニー・小堀弘貴が再登壇。若林は神戸の「社会性を作品に落とし込む」ことへの発言を受けて、SESSION 4での議論を掘り下げるようにこう指摘した。

「クリエイターはジャーナリスティックな視点から新聞をつくる代わりに、世の中で起きていることを自分のなかにインプットして、それをフィルターにかける作業をしている。それは『現在』をレポートするのではなく、『未来』をつくるのに近いこと。クリエイターが社会の情報をろ過していく作業は、それ自体が作品になって社会に還元されていくことで、社会の側にとってもフィルターとしての役割を担うことになる。だからこそ、社会のなかで文化はサステインされなければいけないのではないか、ということを強く思った」

そこから小堀が「クリエイティブは社会の写し鏡というより、社会を再構築していくためのもの。未来をプロトタイピングしていくためにも文化が必要」と語ると、水口も「文化が次の社会を動かすエネルギーを生むための化学反応をもたらしている」と述べたあと、THUのように新しいイノベーションを支える環境づくりが充実してきている反面、ポジティブな未来像がなかなか描きづらい現状を踏まえて、「よりシリアスな覚悟がこれから必要になってきそうな気がする」と述べた。

そして最後に若林が、「出版の世界で電子書籍化によって本がなくなると言われて、なんで紙の本がいいんだっけという話になったときに、『紙の匂いがいい』『触り心地がいい』みたいな雑なことが言われてきた。そういう意味ではパンデミック以降、リアルがなぜ重要なのか、フィジカリティが何を指すのか高い精度で追求しなおす必要が出てきた。そこをいかに再設計していくか」と語り、イベントを締めくくった。

初の無観客オンラインでの開催となったtrialog vol.10は、国や世代、立場の異なる登壇者たちが、世界共通の課題と向き合いながら、それぞれのセッションが呼応するように進行。出口の見えない状況を生きるためのヒントが、いくつも散りばめられていたように思う。ここから私たちはどのような未来に向かっていくのか。次回Vol.11は来年2月に開催予定。

WHAT’S “trialog”?

trialogとは、実験的な対話のプラットフォームです。

世の中を分断する「二項対立」から、未来をつくる「三者対話」へ。
trialogは異なる立場の三者が意見を交わす空間をつくり、
「ほんとうに欲しい未来はなにか?」を考えます。

代表を務めるのはblkswn コンテンツ・ディレクターの若林恵。
さらに、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也が
共同企画者として参加します。ソニーのサポートのもと、
ジャンルや国境を超えた多彩なゲストを迎え入れたイベントを開催し、
対話のためのコミュニティ形成を目指してゆきます。