trialog Partnered with Sony
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VOL.11 SUSTAINABILITY

社会のウェルネス

啓発ではなく、参加の設計が必要だ

SESSION 1:中村崇之×山ノ井俊×佐久間裕美子
SESSION 2:梶川三枝×キアレン・メイヤーズ×水口哲也

2021年2月27日(土)、trialog vol.11が前回に引き続き無観客オンラインで開催された。サステナビリティをより広義な意味で捉え直して「社会のウェルネス」について考えるべく、3本のトークセッションを実施。さらにクロージング・パフォーマンスでは、UKジャズシーンで注目を集める、アラバスター・デプルームのインタビューとパフォーマンスが公開された。

本レポートでは、約4時間に及んだ当日の模様を、前後編の2部構成でお届けしていく。この前編では、SESSION 1「『価値観』を着よう」とSESSION 2「文化と社会変革」を振り返っていきたい。

PHOTOGRAPHS BY YURI MANABE
TEXT BY TAKUYA WADA

Introduction

trialog恒例のオープニングトークには、前回と同じくパネルでセパレートされたスタジオに若林恵、水口哲也、ソニー・小堀弘貴が登壇。

小堀は、「サステナビリティは参加者から聞きたいという声が多かったテーマ。今回は、様々な領域で多面的にサステナビリティに取り組んでいる方を呼んだ」と説明した。

また若林は、「サステナビリティは、地球環境などのイシューを含みつつも、人の生き方や社会のありかたそのものと連動するかたちで考えなければいけない。領域ごとのローカリティのなかで、それぞれの回路をもって、ときに協働しながらサステナビリティに取り組む方々のセッションがひとつのサンプルになればいい」と、多岐にわたる登壇者を迎えた意図を語った。

「『価値観』を着よう」「文化と社会変革」「オープンイノベーション」をテーマに、ファッション、ゲーム、スポーツ、オープンイノベーション、音楽など、それぞれの分野のクリエイターや起業家から語られた、社会の健康や幸福のための実践とはどのようなものなのか。

SESSION 1 Wear Your Values

“啓発”を乗り越えるオープンな循環

SESSION 1では、新著『Weの市民革命』でアメリカにおける消費を通したアクティビズムの動きを伝えた文筆家の佐久間裕美子をモデレーターに迎え、サーキュラーエコノミーを実現するブランド「BRING™」の中村崇之、サステナブルな新素材「トリポーラス™」の事業開発を手掛ける山ノ井俊が登壇。「価値観を着よう」というテーマのもと、「着る」ことの意味を議論した。

山ノ井が開発を手がける「トリポーラス™」は、世界で年間約1億トン以上排出されるといわれる米の籾殻を再生活用した、天然由来の多孔質カーボン素材だ。リチウムイオン電池の高性能化の研究過程で発見されたという高い吸着性をもつこの素材は、消臭・抗菌作用を生む生地や美容・スキンケア製品、さらには文化財の保護、水・空気の浄化など、幅広い分野での活用が期待されている。

一方、「服から服をつくる」をコンセプトに掲げる「BRING™」は、消費者が不要になった衣服をパートナーブランドの店頭で回収し、服に含まれるポリエステル素材を自社の工場で化学分解。染色剤などの不純物を取り除き再生ポリエステルとして原料に戻してから衣類を製造・販売し、また何度も繰り返し回収を行うことで資源を循環させる試みを行っている。

https://bring.org/pages/recyclingtechnology

大量消費が生む環境危機が「“啓発”ではなかなか太刀打ちできない」ほどに大きくなり無力感を感じていたという佐久間は、こうした新たな技術に希望を抱きつつ、技術があるだけでは必ずしも実現できない、市場の理解と参加をどのように加速させていくかに関心を寄せた。

中村崇之|TAKAYUKI NAKAMURA

日本環境設計株式会社 プロダクトマーケティング課 課長。1982年生まれ。東京造形大学メディア芸術専攻卒業、早稲田大学大学院国際情報通信研究科修士課程修了。入社時よりBRING(旧FUKU-FUKU)ブランドディレクターを担当。現在はプロダクトマーケティング課課長としてBRINGブランドのディレクション、ブランディング、セールス/MD/D2C/回収事業のマネージャーを担当。2020年グッドデザイン金賞受賞。2007年 Ars Electronica, Next Idea category, Honorary mention 受賞。

これに対し、中村はオープンイノベーションをサーキュラーエコノミーの仕組みに取り入れることの重要性を強調し、「BRING™」の事例とともに次のように語った。

「服づくりはサプライチェーンが非常に長く、原料の生産から流通となると大変な時間とコストがかかります。ファッションは衣類のバリエーションも非常に多いので、すべてのものづくりを一貫して行える工場は現実的につくれないんです。そのため、われわれのサステナブル素材である「BRING Material™」をブランドに販売し製品をつくってもらう。またリサイクル工場の技術もライセンス展開しているので、我々の工場をコピーして、回収して使うサイクルが現地で生まれればいい。これによって、リサイクルの課題である衣服の回収にかかる輸送費用も抑えることができます。知識をオープンにしてスケーラブルに展開することで、社会全体でより良いサイクルに置き換えていくことができると考えています」

山ノ井はこれに同調し、またオープンイノベーションによって取り入れられるアイデアが、技術そのものと社会の間にある溝を埋めてくれるとも語る。

「当初、1日1グラムしかつくれなかったトリポーラスの製造量は、現在では約5トンにのぼります。これだけの規模は様々なパートナーの助けなしには実現できませんでした。トリポーラスを発見したものの、この性質を使ってどのようにプロダクトアウトするべきか。そのアイデアを広くオープンに募っていくことで、より良い製品となり、多くの方々に届けることができると考えています」

さらに、中村は「サーキュラーエコノミーが浸透するには、きちんとビジネスになることが重要」と指摘。適切な利益に繋がる設計をすることで、理想や意義だけでは作動しない参加のモチベーションを生むことができると説いた。

「『BRING™』では、洋服を持参すると割引券を配布して次の洋服を買うきっかけするといった、リサイクルが売り上げに繋がる販促活動を提案しています。

リサイクルがただのコストセンターになってしまえば必然的にその費用は抑えられてしまいますから、衣類を集めるという行為がプロフィットセンターになることが重要です」

山ノ井俊|SHUN YAMANOI

ソニー株式会社 知的財産センター知的財産インキュベーション部事業開発マネジャー。2009年にソニー(株)へ入社、先端マテリアル研究所に配属。リチウムイオン電池やトリポーラスを含めた材料・デバイス系の研究開発に従事。2015年より知的財産センターにて、知財を活かした事業開発の一環としてトリポーラスの事業開発を担当。オープンイノベーションにより、アパレル分野や化粧品分野などでトリポーラスを配合した商品の製品化を実現。

楽しさとエモーションが「参加」の鍵となる

セッションの終盤では、佐久間が「消費者にサービスと問題を知ってもらうにあたって、何が課題となっているか」と質問。中村は自身の教訓を引き合いに、このように答えた。

「当初、『地球のためにリサイクルを』と打ち出しても衣類はなかなか集まりませんでした。しかし、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でデロリアンが到着した2015年に、『集めた服からつくった燃料でデロリアンを走らせよう』という企画を行ったところ、それまで1年がかりで集めていた重量がわずか3か月で集まったんです。危機を訴えるだけでは消費者はなかなか動きません。楽しさとエモーショナルな体験がセットになっていることが大切で、これらをもっと設計していくことが必要だと感じます」

毎回白熱するゲストによる質問タイムでは、鹿児島の廃校を活用した日本最大のファブラボ「ダイナミックラボ」を運営し、10年以上環境活動家としても活動してきたテンダーの、「化繊によるマイクロプラスチック流出などの問題について、『BRING™』のビジョンと現在地は?」という鋭い質問が飛んだ。中村は次のように回答。

「私たちは、ポリエステルそのものをサステナブルなものに変えることを目標にしています。ポリエステル製品は世界の繊維市場の6割を占めており、世界の人口増加があるなかで、綿製品だけでは洋服の供給に生産が追いつきません。また綿生産における労働者の搾取構造や、製造過程で大量の水が使用されることでの土壌の負担なども大きく問題視されており、ポリエステルの増加を止めることは現実的ではないと捉えています。

佐久間裕美子|YUMIKO SAKUMA

文筆家。慶應義塾大学卒業、イェール大学修士課程修了。1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。 カルチャー、ファッション、政治、社会問題など幅広いジャンルで、インタビュー 記事、ルポ、紀行文などを執筆する。著書に『Weの市民革命』(朝日出版社)『真面目にマリファナの話をしよう』(文藝春秋)、『My Little New York Times』(Numabooks)、『ピンヒールははかない』(幻冬舎)、『ヒップな生活革命』(朝日出版社)。

ですから、環境汚染を抑制する技術を積極的に使うことに舵を切っており、ポリエステルの内分泌かく乱物質の脱落を5分の1にする新しい紡績技術を採用するところまで来ている、というのが『BRING™』の洋服の現在地です」

視聴者からの「価値があることはわかっているけど、着たいと思うものを買いたい」というコメントに触れて中村が言及したように、サステナブルな服を買う人は、現状では「なかなか奇特な人」なのかもしれない。そこで大事なのは、「サステナブルだから買う」という行動を促すことではなく、「欲しい・使いたいから買ったものがサステナブルだった」という状況をつくることだ。オープンソースなサーキュラーエコノミーのシステムにビジネスの視点、楽しさとエモーショナルな体験が組み込まれていること。そして、そのなかに社会課題のコンテクストが潜んでいること。それが“啓発”の限界を乗り越え、社会変革への参加を促していく鍵になるのかもしれない。

SESSION 2 Culture and Social Change

社会課題解決に接近するゲームとスポーツ

文化の役割が再定義され、社会変革をレバレッジしていくある種のドライバーとなりつつあるなかで、文化セクターに属する企業やプロジェクトは、社会変革のためにどのような役割を果たし得るのか。SESSION 2では、ゲームを通して、サステナブルな社会を実現すべく、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)で、様々なプロジェクトを行うキアレン・メイヤーズ、スポーツを通した社会変革をミッションに掲げる「Sport For Smile」代表の梶川三枝を迎え、「文化と社会変革」をテーマに議論。モデレーターは水口が務めた。

冒頭に水口が「はじめて聞いた」と述べたように、キアレンの「環境・技術コンプライアンス 責任者」という肩書きを、ゲームの分野から思い浮かべる人は少ないかもしれない。キアレンは、SIE製品のライフサイクルにおいて2050年までに地球環境に与える負荷をゼロにすることを目指し、プレイステーション®をはじめとしたゲームにおける環境・サステナビリティの推進を担当している。プレイステーション®4の消費エネルギー効率の向上や(これまで1750万トンのCO2排出量削減を達成したという)、これまで約1億台以上を販売したプレイステーション®4を通じて、ゲーマーに「教育・情報・インスピレーション」を提供する取り組みなどを行っているという。

一方、梶川が運営する「Sport For Smile」はスポーツメンタリングによる子どもたちへの支援活動や、メガスポーツイベントでの啓発キャンペーン、プロスポーツチーム・リーグを中心とした気候変動・環境問題に特化したコミュニティづくりなどの活動を行っている。

梶川三枝|MIE KAJIKAWA

「スポーツの力で社会を変える」日本初のプラットフォームSport For Smile 代表。オハイオ大学大学院スポーツ経営学科留学中に日本人女性初のNBAビジネスインターンとして採用され、帰国後東京五輪招致委員会勤務、2010年スポーツの社会的責任活動支援事業で起業。国連や世界銀行、NBAやFIFAパートナーとも連携、また気候変動・環境問題に対してSFS Planet League を立ち上げ。

ゲーム、スポーツの領域で起きている社会変革の動きとはどのようなものなのか。まず水口は、「ゲームデザインが教育に取り入れる『ゲーミフィケーション』の動きが出始めた約10年前から、どのように発想が変化しているか」という質問をキアレンに投げかけた。キアレンは、「ゲームミフィケーションの時代とは異なり、いまはゲーム体験のなかに教育が組み込まれています。それがより大きなエンゲージメントに繋がっているんです」と解説し、このように続けた。

「例えば、インフォテインメント的なVRアプリケーションのなかで複雑な科学やデータを視覚的に投影すると、身体的なものとして感じることができる。さらに、ゲームのなかに入り込んでゲームをつくることができる『Dreams Universe』のようなプラットフォームのなかでインタラクションすることで、ユーザーが複雑な現実に関わり合いをもつことができるんです。このようなゲームの力は、私がゲーム業界に携わって驚いたことのひとつです」

こうした試みは社会課題の分野においても行われており、国連環境計画(UNEP)が発表した、地球環境に関するコンテンツを盛り込んだゲーム『The Green Mobile Game Jam』のアクティブユーザー数が約2億5000万にのぼることからも、ゲーム体験が従来型のメディアでは到達できない人々にリーチし、社会変革へのインパクトをもつ可能性を秘めていることがわかる。

また梶川は、アメリカのスポーツリーグに所属する選手が本を読みに地域を訪れたときに目の当たりにした子どもたちの絶叫、DVを受けた経験があるこどもたちのために実施しているスポーツプログラムが彼ら/彼女らのメンタルヘルスにポジティブな変化を与えている経験から、フィジカルなファンコミュニティをベースにするスポーツが「社会変革のツールとして機能すると実感した」と述べる。

世界的な流れを見ても、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)と国際オリンピック委員会(IOC)が連携して立ち上げた「スポーツ気候行動枠組み」にプレミアリーグではじめてアーセナルFCが参加、また北米の主要スポーツクラブとしてはじめてニューヨーク・ヤンキースも参加し、またプロスポーツ界初の「環境科学顧問」を雇用するなど、スポーツ業界の社会課題への取り組みは加速している。ローカル・グローバル双方において広いファンコミュニティをもつスポーツクラブが、社会を組み直すひとつのテコとなっていることの表れといえるだろう。

キアレン・メイヤーズ|Dr. KIEREN MAYERS

ソニー・インタラクティブエンタテインメント 環境・技術コンプライアンス 責任者 。2000年からソニーに在籍し、環境やサステナビリティに関する課題解決に従事。 2003より現SIEに参画。世界でも最大規模の成功を収めているリサイクル・スキームの構築や、欧州委員会と共にゲーム機のエネルギー効率に関する自主協定の実施、また2019年の国連気候行動サミットでは「Playing for the Planet Alliance(プレイング・フォー・ザ・プラネット・アライアンス)」の立ち上げに参加。 環境技術の工学博士号を持ち、インシアード大学にて客員企業家としてサステナブル事業を先導し、当分野において影響力のある学術研究を積極的に実施、発表している。

エコシステムのなかに、ヒーローを見出せ

水口は、プレーヤー・観客・実況者・チームの存在といった「ゲームとスポーツの類似性」をセッションのなかで指摘する。それを受け、キアレンは「ヒーロー」というもうひとつの要素を付け加え、さらに、次のように強調した。

「ヒーローとは、スタープレーヤーだけを指すものではありません。ゲームにおいては、そのエコシステムのなかに存在する『キャラクター』もヒーローになり得ます。ヒーローは時代の声を表す代弁者であり、キャラクターもそうした役割を担うことができるはずです。また『Dreams Universe』のようなゲームのなかで、ゲーマーがクリエイティブなかたちでキャラクターを生み出し、さらにゲーマー同士がゲームの中で関わり合いをつくりだしていくことができると考えています」

ゲストによる質問タイムでは、サッカークラブ「鎌倉インターナショナル」の監督兼CBOを務め、世界各地にコミュニティ型のサッカーグラウンドづくりを行うNPO法人にも関わる河内一馬が、「日本ではスポーツ本来の魅力やヒーローが社会に対して与える影響が大きくないという危機感があります。ヒーローやロールモデルがあったとして、それをどう最大化していけばよいか?」と疑問を投げかけた。

水口哲也|TETSUYA MIZUGUCHI

Enhance代表/シナスタジアラボ主宰。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design)特任教授。シナスタジア(共感覚)体験の拡張を目指し、研究・創作を続けている。ビデオゲーム作品 「Rez」(2001)、「Lumines」(2004)、「Child of Eden」(2010)、「Rez Infinite」(2016)、 「Tetris Effect」(2018)などを始め、音楽を光と振動で全身に拡張する「シナスタジア・スーツ」(2016)、共感覚体験装置「シナスタジア X1–2.44」(2019)など、作品多数。Enhance: https://enhance-experience.com/シナスタジアラボ: https://synesthesialab.com/

梶川は、日本のスポーツの市場規模が大きくないこととに同意しつつ、「地球環境の悪化は喫緊の問題であるし、世界の認識の変化とともにマーケットニーズも急速に変化している。これらを踏まえると、小さいステップでもいいので早くアクションを起こしたほうがいい」と答え、これにキアレンも同調。さらに、視聴者の「何から取り組むべきか」という質問とあわせて、次のように提示する。

「最初のステップとしてはインパクトと現場を理解すること。目標が誤ってしまうと達成した先の未来が間違った結果になってしまうからです。次に最適なロールモデルを探して手本にすること。そこから、ステークホルダー、観客、ユーザー、競合、自分自身にとって何を意味するのかを問いながら、誰を巻き込むのか、そして目標にいたる詳細なステップを考えることが重要です」

このセッションを通して、水口は「ヒーロー不在」による産業の盛り上がらなさがあることを言及しつつ、ヒーローに対するイメージを変えながら見出していくこともひとつの方法論であると総括した。インパクトは小さくとも、ヒーローは様々なところに存在する。小さなことからはじめ、ヒーローを見出し、プランをつくっていくことが、カルチャーの醸成と社会変革の種となるのだろう。

WHAT’S “trialog”?

trialogとは、実験的な対話のプラットフォームです。

世の中を分断する「二項対立」から、未来をつくる「三者対話」へ。
trialogは異なる立場の三者が意見を交わす空間をつくり、
「ほんとうに欲しい未来はなにか?」を考えます。

代表を務めるのはblkswn コンテンツ・ディレクターの若林恵。
さらに、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也が
共同企画者として参加します。ソニーのサポートのもと、
ジャンルや国境を超えた多彩なゲストを迎え入れたイベントを開催し、
対話のためのコミュニティ形成を目指してゆきます。