trialog Partnered with Sony
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VOL.11 SUSTAINABILITY

社会のウェルネス

変革は、自分のなかに起こすことからはじまる

SESSION 3:トーマス・エルマコラ×柳平大樹×若林恵
AFTER HOURS:アラバスター・デプルーム

2021年2月27日(土)に無観客オンラインで開催されたtrialog vol.11。「社会のウェルネス」について考えるべく、国内外から多岐にわたるゲストを迎えて3本のトークセッションを実施した。

今回は前後編の二部構成で約4時間に及んだ当日の模様をレポート。前編では、文筆家の佐久間裕美子をモデレーターに迎え、サーキュラーエコノミーを実現するブランド「BRING™」の中村崇之、サステナブルな新素材「トリポーラス™」の事業開発を手掛ける山ノ井俊を迎えたSESSION 1「『価値観』を着よう」、またゲームを通したサステナブルな社会を実現すべく活動する、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのキアレン・メイヤーズ、スポーツを通した社会変革をミッションに掲げる「Sport For Smile」代表の梶川三枝を迎えたSESSION 2「文化と社会変革」を振り返った。後編では、SESSION 3「オープンイノベーション」とAFTER HOURSの模様をお届けする。

PHOTOGRAPHS BY YURI MANABE
TEXT BY TAKUYA WADA

SESSION 3 Action

「エネルギーはインターネットと似ている」

SESSION 3では、シティ・フューチャリストのトーマス・エルマコラ、ソニーコンピュータサイエンス研究所 リサーチエンジニアの柳平大樹を迎え、「オープンイノベーション」について議論。モデレーターは若林が務めた。これまでの社会や枠組みやシステムを再設計するためのひとつの手立てとして、オープンイノベーションはどのような役割を担うことができるのか。「いろんな答えが出てしまった」と若林も唸った、白熱の議論がスタートした。

トーマスは、都市のデザインの段階からオープンに市民を巻き込み、いかに市民と良好な関係を築きながらサステナブルでレジリエントな都市を形成できるかを研究してきた。

かたや柳平は、ソーラーパネルなど、個人やコミュニティで発電した電力を蓄電し、互いに融通しあう分散型のオープンエネルギーシステム(以下、OES)の普及を実現すべく活動。住宅に導入した実証実験を沖縄で行った。また2020年12月には、マイクログリッドのコアとなる電力融通の制御ソフトウェアをオープンソースとしてリリースした。

若林の「OESは従来の電力システムとどう違うのか」という質問に対し、柳平はこのように説明した。

「従来の先進国の電力システムは、1箇所で大規模に発電して広範囲に供給するというモデルでした。一方OESは、ユーザー側で発電・蓄電を行い、ネットワーク内で必要な分だけ電力を融通しあってコミュニティに安定的に供給する仕組みになっています。ソーラーパネルを利用すれば、太陽が届く場所であればどこでも発電できますし、災害時に巨大な発電システムが停止してしまうことでユーザーがなす術もないという事態を回避できる。PP2P(Physical Peer to Peer)電力融通(※)によってユーザーがインフラの維持に参加できるという強みがあります」

トーマス・エルマコラ|Thomas Ermacora

シティ・フューチャリスト / インパクト投資家 / オープン・イノベーション・シンカー。これまで、参加型のプロセスを通じて都市や地域の自己組織化の方法を再定義する数々のインパクトプロジェクトや実験を開拓しており、タクティカル・アーバニズムの非営利団体「Clear Village」、カルチュアル・インキュベーター「Limewharf Studios」などを立ち上げ、様々な都市だけでなく、G7、Xprize、クリントン・グローバル・イニシアティブ(都市のメンタルヘルスのためのプラットフォーム「Cities Rise」の立ち上げを支援)、世界経済フォーラム、欧州委員会などの組織に対してもコンサルティングを行ってきた。他にも、MITの難民教育プラットフォーム、バチカンのラストマイル・テクノロジー・インキュベーターを共同設立し、多くのスタートアップをサポートしている。最近では、ロンドンデザインミュージアムの「Moving to Mars」展のゲストキュレーターを務め、高い評価を得ている。著書に『Recoded City: Co-Creating Urban Futures(Routledge・2016)』

※PP2P電力融通:特定ユーザー(バッテリー)間で、必要な電力量と電力価格で電力融通・取引を行う仕組み

「電力」のオーナーシップを、電力会社でなくユーザーが獲得するためのこの取り組みに対して、トーマスは「プロシューマー」を例に「インターネットと似ている」と指摘。さらに次のように続ける。

「この20年での大きな変化は、インターネットによる『プロシューマー』の台頭です。YouTubeで自分でコンテンツ制作をしてパブリッシュすることができるようになり、消費だけでなく制作も担うようになった。ドライバーがネットワークに参加することでプロシューマーとなったUberもそうです。OESも、人が消費だけでなく発電にも参画する点でインターネットに似ています。

エネルギー・輸送・教育・健康などの社会インフラは新しいモデルに再設計していくことが必要になっていますが、『他対他』、つまり仲買の存在を除いた社会インフラの民主化を進めていくうえで、エネルギーは最適な領域なのではないでしょうか」

一方で、柳平は社会インフラを民主化することの困難を、OESの実証実験での経験を引き合いに次のように語る。

柳平大樹|DAIKI YANAGIDAIRA

ソニーコンピュータサイエンス研究所 リサーチエンジニア。2005年ソニー入社後、VAIO PCやPlayStation®Vitaなど数々の製品設計に携わり、特にバッテリを中心とした電源・電力システムの開発に従事する。2014年より、現職。「電力も一つのメディアである」と捉え、各個人が自由かつ自律分散的に生産・消費・交換・共有できる仕組みと、これまで培ってきた電源技術・充放電制御技術を融合させた電力システムをオープンエネルギーシステム(OES)という形で世の中に実現すべく活動している。2020年には、その中核モジュールである電力融通ソフトウェアをOESプロジェクトからオープンソース化。

「ソーラーパネルや蓄電池の導入という参加のハードルがあるので、やはりどれくらい再エネが利用できて電気代が安くなるのか、というところに意識がいってしまいます。まだユーザー同士で電力を融通し合うことに関心が向かないんです。インターネットのように個人同士で生産・流通ができるプラットフォームは、エネルギー業界からすると羨ましいと思うこともあります。

しかし技術の進歩によってエネルギーが手軽に扱えるようになった時に、ユーザーがどう電力をマネージするかを考えることができるプラットフォームを、今からつくっておくことが重要です。それによって、エネルギーだけでなく社会インフラすべてにおいて、みんなが楽しく参加し、さらにプラットフォームが進化していく文化を育てたいと考えています」

参加を促すファシリテーションの重要性

どれだけ技術に社会的な意義があっても、市場の理解、市民の参加を獲得することは難しい。これはSESSION 1とSESSION 2でも共通して議論されたトピックである。

trialog VOL.11 レポートSESSION 1、SESSION 2:啓発ではなく、参加の設計が必要だ

若林は、かつて自身がインタビューした台湾のデジタル担当政務委員、オードリー・タンの「市民が参加していく能力としてのコンピテンス(Competence)」という言葉を引用。

「『リテラシー』ではなく、『市民が参加していく能力』を高めていくにはなにが重要か?」という問いを投げかけた。

トーマスは、「いまおっしゃったことは社会変革におけるまさに真髄といえるでしょう」と同意。さらに、参加の文脈のデザインには何が重要かを次のように語る。

「まずナレッジをもとに問題の枠組みをつくり、その枠組みの複雑性を回避してシンプルに市民に共有すること。参加というのは、アイデアや意思決定への影響力を持っているかですから、その段階から参加を促す設計が必要です。

次に、問題解決のためのステップをつくり、参加した人がチームのなかで何をすべきかを最適化させることができるようにすること。さらに、参加したことによる成果やインパクト、つまりインセンティブを明確に伝えること。それがなければ信用を得ることはできません。例えば、『公園がもっと綺麗になる、もっと遊べるようになる』というインセンティブがあれば、親の関与へのモチベーションは生まれていきます。

若林恵 | KEI WAKABAYASHI

1971年生まれ。編集者。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。2000年にフリー編集者として独立。以後、雑誌、書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立

このように、それぞれのポイントで参加を促すファシリテーションをしっかりと行っていくことが最も重要です。やりやすいところから始め、徐々に難しいところにアプローチしていきながら、ファシリテート側の訓練をしていく必要があるでしょう」

これに対して、「社会インフラは成果が出るまでのタイムスパンが長い。インセンティブを『維持』するためにどうファシリテーションするか」という柳平の質問が飛ぶ。これに対してトーマスは、「一貫性」というキーワードを提示した。

「重要なのは一貫性であり、共通言語です。問題に対してすでに携わったことがある人を『通訳』として起用すること。人間は個々の規律をもって行動できますが、集団となると注意が必要です。なぜなら、間違ったインセンティブにした場合、指数関数的なスピードで誤った方向へ向かってしまうからです。そのために、一貫して適切なインセンティブモデルをつくる必要がある。これを誤ってしまうと、アーリーアダプターしか参画しません。それはまさに悲劇といえるでしょう」

質問タイムでは、モビリティ・プラットフォーム「CREW」を運営する株式会社Azitの吉兼周優から、「社会インフラとしてインパクトが増せば増すほど、中央政権との関係性は増えていく。そのとき、参加型の民主主義において、ガバメントが果たす役割は何か」という質問がぶつけられた。トーマスの回答はこのようなものだった。

「政府の役割は、倫理の枠組みをつくり、市民に対して公平性が機能しているかを担保することです。政府はオープンイノベーションのファシリテーターにはなり得ません。民間・市民セクターのファシリテーションを助けることが重要で、自分たちがどのように参画するかを決めることはできても、それによって邪魔になるようなことがあってはいけないのです」

セッションの終盤、「市民参加は、最終的な成果が公共の利益のためにあり、誠実に行われることではじめて実現する」とトーマスは強調する。トーマスの領域である都市開発同様、社会変革には長いプロセスを要するが、「正直さ」が欠けたまま進んでしまえば「気づけば変革は誤ったものになっている」可能性がある。さらに、現代のコミュニケーションスピードは、変革の方法が間違っていることを一瞬にして世界に知らしめることになる。嘘のコストは本当に高いのだ。

「可能な限り早いタイミングで市民が参画し、公正・誠実にファシリテーションが行われること。さもなければ大きなリスクとコストが伴います。新しいことというのは、心、魂から『なぜやるのか』を考えることで、はじめて“本物”として受け入れられるのです」(トーマス)

AFTER HOURS

ひとびとの共感が欠如したとき、音楽は大きな役割を果たす

最後に登場したのは、ロンドン在住のサックス奏者で作曲家のアラバスター・デプルームだ若林が熱望し実現した彼のインタビューと、1カメラ1テイクで撮影されたパフォーマンスが公開された。

若林が「弱さを晒け出してその場に置いていき、音楽で互いを支えているような、見たことのないバイブスの演奏をする」と語り、また音楽評論家・柳樂光隆が「学習障害のある2人の友人の心を穏やかにするため、『たった3人=最小限の単位のコミュニティ』のために作った音楽」と評するアラバスター・デプルーム。そんな彼がインタビューで強調した「真正(authenticity)」という言葉は、期せずして、SESSION 3で語られた社会変革に不可欠な「正直さ」と深くリンクする。

今回のパフォーマンスが撮影された場所でもある「Total Refreshment Centre(以下、TRC)」は、演奏やレコーディングの場をジャズミュージシャンに提供し、ロンドンジャズシーンの興隆に大きな役割を果たしてきた。この場所を根城にするアラバスター・デプルームに、若林は「そんな文化空間を別の場所で再現することは可能か?」という質問をする。すると彼は「質問の意図はよくわかります」と呟き、静かに、しかし力強く答えた。

「人が関わる物事のやり方は『誰がやるか』によって異なります。そうでないのであれば、それは人の話ではありません。ですから答えはこうです。TRCで行われていることを複製することはできません。

TRCのような場所をつくりたいと考えている人は、自分たちのTRCをつくらなくてはなりません。そしてそれは同じく、誰にも複製することはできないのです」

また若林は、「文化が果たすべき社会的な役割・責任とは何か?」という質問を続ける。文化・芸術は「不要不急」か、はたまた「社会に必要なインフラ」かという議論は絶えず起き、パンデミックによってさらに加熱しているが、アラバスター・デプルームは、ある種のヒーリング的な精神の受け皿にとどまらない、人々に想像力を与え認知の変化を促す文化の役割を語った。

アラバスター・デプルーム|Alabaster Deplume

UKのマルチ器楽奏者。マンチェスターで音楽活動を始め、2015年にロンドンに移り、ロンドンジャズシーンの興隆に大きな役割を果たしてきたスタジオとライブスペース(現在は閉鎖)「Total Refreshment Centre」を根城に「Alabaster Deplume」名義で活動を展開する。2020年にシカゴの先鋭的ジャズレーベル〈International Anthem〉より、「To Cy & Lee」をリリースし、サイケデリックフォークとフリージャズとアンビエントミュージックとが交錯する摩訶不思議な国際的な注目を集め、Bon Iverが音源をサンプリングしたことで更に評価を集めた。2020年末には電子音楽家Danalogueとのコラボ作「I was not sleeping」を発表、最新作「Gold」は本年リリース予定。
https://alabasterdeplume.bandcamp.com

「文化の役割について、毎日のように考えています。人に教えてもらったフレーズですが、社会において起こる変化は、まず自分自身において起きなくてはならない、ということです。

分断、反動、ファシズムによる攻勢が勝利を収めるのは、ひとびとの共感が欠如したときです。そこで音楽は大きな役割を果たします。『イマジネーション』と『エンパワーメント』がアーティストの領域でないのであればいったい誰の領域なのか、私はそう言いたい。

そして役割をまっとうするには、「傷付きやすさ(vulnerability)」「真正(authenticity)」そして沢山の「勇気(courage)」が必要です。これを見ているアーティストのみなさん、恐怖と向き合うのです」

インタビュー後に公開されたパフォーマンスの撮影は、周囲の環境音ごと集音するアンビエントマイクを1本だけ用いて行われた。マイクに集中するのではなく、自由に動き回る演奏者と音に耳を澄ませることで共感し、互いを支え合う。アラバスター・デプルームを知らない、これまで一緒に演奏したことのないミュージシャンが集ったTRCには、いまここにいる人間を大切にした、私的で実直な彼の優しさが音となり満ち満ちていた。

「演奏の意義は“感覚の交感“にあります。正しく演奏することには興味はありません。大切なのは真正は感覚とたくさんのクリエイティビティなのです」(アラバスター・デプルーム)

WHAT’S “trialog”?

trialogとは、実験的な対話のプラットフォームです。

世の中を分断する「二項対立」から、未来をつくる「三者対話」へ。
trialogは異なる立場の三者が意見を交わす空間をつくり、
「ほんとうに欲しい未来はなにか?」を考えます。

代表を務めるのはblkswn コンテンツ・ディレクターの若林恵。
さらに、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也が
共同企画者として参加します。ソニーのサポートのもと、
ジャンルや国境を超えた多彩なゲストを迎え入れたイベントを開催し、
対話のためのコミュニティ形成を目指してゆきます。